労働問題に関する用語集
サービス残業とは,その名の通りサービスで行われる,残業代の発生しない時間外労働のことをいいます。厳密にいうと,残業代の発生しない時間外労働は存在しないため,表向きは労働していないこととしながら,実際には時間外労働をしている状態となります。「賃金不払残業」ともいいます。
たとえば,勤怠管理を自己申告制で行っている会社で,労働者が労働時間を現実より過少に申告する場合は,典型的なサービス残業にあたります。このようなサービス残業が社会問題となったことから,平成13年に出された労働基準局長通達「労働時間の適正な把握のための使用者が講ずべき措置に関する基準」によって,例外的な場合にのみ,勤怠管理を自己申告制で行うことが認められる形となりました。
さらに,例外的に自己申告制を導入する場合でも,(1)労働者に対して,適正に自己申告を行うことについて十分な説明を行うこと,(2)必要に応じて実態調査を実施すること,(3)適正な申告を阻害するような措置を講じてはならないことを条件としており,適正な労働時間の管理を徹底しようとしていることがわかります。
相手に対して一定の行為を請求することをいいます。有効な催告をすることにより、6ヵ月間時効の完成が猶予、すなわち6ヵ月間時効の進行が止まります。
残業代請求においては、「過去3年分の未払い残業代を支払ってください」などと未払いの残業代を請求する意思を明確に伝えた場合に、有効な催告として、時効の完成が猶予されます。
なお、催告は、口頭でも書面でも行うことができますが、催告した証拠を残すために書面で明確に伝えるのがよりよいといえます。
残業代請求において時効の更新が認められる事由の1つで、裁判手続を取ることをいいます。たとえば、民事訴訟の提起や労働審判の申立てがこれにあたります。
裁判手続や労働審判手続が終わるまでは時効が完成しないため、残業代請求の時効にかからないようにする有効な手段といえます。
残業代請求において時効の更新が認められる事由の1つで、消滅時効が完成したことによって利益を受けるべき者が、権利者に対して債権が存在することを認めることをいいます。
残業代請求でいえば、会社が一部残業代を支払う場合や、未払いの残業代があること自体を認めた場合が、「承認」にあたり、承認がなされた時点から時効が新たに再カウントされることになります。
採用内定(単に「内定」ということもあります)とは,就労または労働契約の効力の発生始期付きで,かつ解約権留保付きの労働契約のことをいいます。つまり,働き始めの日を定め,その日までは内定者は内定を辞退することができるし,使用者も内定を取り消すことが認められるという労働契約のことです。
ただし,使用者の側から内定取消しをするには,合理的な理由が必要とされています。たとえば,大学を卒業できなかった場合や,病気・ケガにより業務に就けなくなった場合,内定時に約束した身元保証書等の必要書類を提出しなかった場合,使用者である企業が著しい経営難に陥った場合などです。そのような理由もなく採用内定を取り消した場合,その取消は無効となります。過去には,任意の研修に参加しなかったことにより内定を取り消したことを無効とした判例があります。
ちなみに,この合理的な理由がなければ内定取消をされないという考え方は,新卒の採用内定だけではなく,中途・キャリア採用にも適応されます。
なお,採用内定の前に採用内々定(単に「内々定」ということもあります)を出す企業もあります。この採用内々定ですが,採用内定とは異なり,それだけでは労働契約は成立しないと解されるのが一般的です。
採用内々定(単に「内々定」ということもあります)とは,正式な採用内定に先立ち,内々で採用の意思がある旨を伝えることをいいます。
採用内々定の性質については争いのあるところであり,事実上,採用内定とほぼ同じ意味で使う場合もありますが,一般的には採用内定と異なり,採用内々定が出された時点では労働契約は成立していないとされています。
判例においても,内々定が出された経緯や前後の事情を検討したうえ,新卒者を囲い込むための事実上の活動にすぎないことから,「労働契約は成立していない」としたものがあります。
採用内定の場合,使用者が採用内定を取り消すには合理的な理由(例:採用側の企業が著しい経営難に陥ったこと)が必要となりますが,採用内々定の場合,そのような制約はありません。
ただし,採用内々定の取消が,内々定を受け取った者の採用への信頼を著しく損ねるような場合には,使用者側が損害賠償責任を負うとした判例もあります。
裁量労働時間制とは,一定の業務に従事する労働者について,実際の労働時間にかかわらず,労働時間をみなし時間で計算する制度のことをいいます。
本来,労働時間は実際に労働した時間で計算しますが,業務の種類によっては,その遂行方法や労働時間を労働者の裁量に委ね,みなし時間で計算するほうが適切な場合があり,労働の量だけではなく,質や成果も考慮する時代の流れから導入されたものです。
裁量労働時間制では,使用者は業務の遂行方法や時間について具体的な指示を行わない点に特徴があり,専門的な職種(研究開発職,デザイナー,税理士等一定の職種)についての「専門業務型」と,事業の運営について企画,立案等の業務に従事する場合の「企画業務型」の2種類があります。
これらは,「みなし労働時間制」の1種ですが,みなし労働時間制には,ほかにも外回りの営業や新聞記者など,主に社外で働く「事業場外労働」を対象としたものもあります。
なお,この制度は,労働時間をみなし計算するだけですので,みなし時間が法定労働時間を超える場合や深夜業になる場合には別途割増賃金が必要です。また,休憩や休日に関する労基法の規定も適用があります(昭和63年1月1日基発1号)。
36協定(サブロクキョウテイ)とは,使用者と,労働者の過半数で組織する労働組合(それがない場合は,労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)との間で結ばれる,労働時間の延長や,休日労働の実施に関する協定です。労働基準法36条に定められていることから,このように呼ばれています。
36協定には,時間外,休日労働を必要とする理由のほか,業務の種類や労働者の数等を定めなければなりません。さらに,協定を締結しただけでは足りず,これらを記載した書面を行政官庁に届け出る必要があります。
この36条協定を結ばずに時間外・休日労働をさせると,場合によっては6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰に処せられることもあります。36協定を結んでいれば,その範囲内で時間外・休日労働をさせても刑事罰に問われることはなくなります。
反面,判例では,労働者に時間外・休日労働義務を負わせるためには,36協定のみでは足りず,就業規則等による時間外労働義務に関する定めが必要だとされています。また,36協定を結んでいたとしても,それに対応する時間外労働賃金は支払わなければなりません。
産休とは,産前産後休業という出産のための休暇のことをいいます。
産前休業については,6週間以内(多胎妊娠の場合は14週間,出産日当日は産前休業に含まれます)に出産を予定する女性が休業を請求した場合,使用者はその者を就業させてはいけないと定められています(労働基準法65条1項)。なお,女性が請求を行わない場合は引き続き就業することが可能です。
産後休業については,使用者は産後8週間を経過しない女性を就業させてはいけないとされており,請求の有無にかかわらず就業が禁止されています。産後6週間が経過した後は,女性が請求し,医師が健康に支障がないと認めた業務に就くことは可能です(同条2項)。つまり,少なくとも産後の6週間は,本人が希望しても就業を禁止しなくてはならないのです。
なお,産後休業から,子どもが1歳に達する日までの間は育児休業を取得することができます。産前産後休業中の賃金については,法律で決められているものではなく会社によって異なります。
時間外労働とは,1日または1週間の法定労働時間を超える労働のことをいいます。
法定労働時間は,労働基準法32条に規定されており,1日につき8時間,1週間で40時間と定められており,これを超える労働が時間外労働となります。
労働契約によって定められた労働時間のことを所定労働時間といい,労働基準法においては,所定労働時間を超えても法定労働時間を超えなければ,原則として割増賃金を支払う必要はないとされています。
したがって,たとえば1日6時間,1週間で30時間労働するという労働者の場合,この労働者が毎日2時間残業をしたとしても,通常の給与体系に基づいた残業代は受け取ることができますが,労働基準法37条のいわゆる割増賃金の請求はできないこととなります。
もっとも,現実には,時間外労働を含む所定外労働について,自己申告制のもと実際よりも過少に申告すること等による「サービス残業」の広がりが指摘されており,労働者が労働の対価をきちんと受け取れる環境作りが必要とされています。
時間外割増賃金とは,時間外労働の対価として支払うべき割増賃金のことをいいます。
法律で定められた労働時間を超える労働となるため,通常の賃金に比較して割高な賃金を支払うこととされており,労働基準法37条に規定されています。
肝心の割増率についてですが,時間外労働の場合,原則として25%以上の割増率で計算され,週60時間を超える部分については,50%以上の割増率(※)で計算されることとされています。
また,時間外労働がほかの賃金割増要因である深夜労働・休日労働と重ねて行われていた場合,その分も合わせて請求できることになります。たとえば,週60時間を超える労働が深夜に行われていた場合には,深夜割増の25%以上に,時間外割増の50%以上を足して,割増率は75%以上となります。
法律で定められた労働時間は,就業規則などにより延長することは認められていないため,1日8時間,1週間で40時間を超えて労働している場合は,きちんと残業代が割増で支払われているかをチェックしてみる必要があります。
時季指定権とは,使用者による時季変更権の行使があり得ることを前提として,適切な年休取得時期を定めるための権利です。
労働者には一般的に「年次有給休暇」というものがあります。これは,労働者が賃金の支払を受けながら休暇を取ることができる制度のことで,労働基準法39条に定められています。この条文にある要件を満たした場合,労働者には,法律上当然に年休権という権利が発生します。具体的には,雇入れの日から起算して6ヵ月以上継続勤務し,全労働日の8割以上出勤した場合です。
そして,労働者が時季指定をしたときは,使用者側が時季変更権を行使しない限り,年休の効果が発生するという最高裁判例があります。
なお,「時季」とは「季節を含めた時期」という意味で,労働者は,有給を使う時期として,大雑把に季節を定めたうえで,具体的日時を後日上司と相談して決めたり,初めから具体的時期を定めたりすることができます。
時季変更権とは,労働者が希望した有給申請(時季指定権の行使)に対して,会社側がその時季を変更する権利をいいます。
会社は,労働者が時季指定権を行使した際には,基本的に労働者の希望通りに認めなければなりませんが,会社の繁忙期に,多数の労働者が同時に有給申請するなどした場合には,業務が滞るなどの損害を受けることになります。
そこで,労働基準法では,「使用者は,前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし,請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては,他の時季にこれを与えることができる。」と定めています(労働基準法39条5項)。
どのようなケースが「正常な運営を妨げる場合」にあたるかはそれぞれの事情によりますが,過去の裁判例では,「人員配置の適切さ」や「代替要員確保の努力」といった会社側の配慮が適切になされていたかを合わせて判断されています。
自主退職とは,会社からの申し出によって退職するのではなく,労働者自ら辞める意思を明らかにして勤務していた会社を退職することをいいます。一般的には,労働者自ら勤務先に対し「辞表」や「退職届」等を提出して行うことになります。
勤務先からの自主退職が労働者の自由な意思に基づくものであるなら,個人のステップアップの一環として何ら問題ありません。しかし,昨今の厳しい経済情勢の下,会社が厳しい退職勧奨を重ねるなど,事実上の退職強要にあたる行為が,誰もが知っているような大企業においても行われているといわれています。
退職勧奨を行うこと自体は,「退職をしたらどうか」とすすめる行為であり会社の自由ですが,これに応じるかどうかもあくまで労働者の自由です。したがって,会社が退職勧奨を行う場合には,説得の手段や態様,回数,一回当たりの時間の長さ等を常識的な範囲内にして,労働者が退職の勧奨をいつでも断れる状況を作っておかなければなりません。
なお,退職勧奨の結果,本人が自ら退職の意思を明らかにしたとしても,意思表示が会社からの強迫によると認められる場合には,その退職の意思表示は無効となります。
事前特定の禁止とは,派遣労働者を受け入れようとする会社(以下「派遣先会社」といいます)が,労働者派遣契約を派遣元会社と結ぶ際に,事前面接や履歴書の送付要求などによって,派遣される労働者を特定しないように努めなければならないことをいいます(労働者派遣法26条7項)。
派遣先にとっては,自社で勤務する以上,事前にどのような労働者が派遣されて来るのか把握しておきたいと考えるのは当然です。しかし,法律の労働者派遣に対する考え方は,一時的な労働力の不足に対応するためのものであり,常時雇用の代わりではなく,あくまで派遣先会社が必要とする業務を行っていくためのスキルがあれば足り,人間性やキャラクター等について考慮する必要はないというものです。
事前特定の禁止は,派遣先の努力義務にすぎないため,現実的には派遣先会社による事前面接は広く行われており,「年齢」や「容姿」といったスキルとは関係のないところで採用選考が行われているのではないか,と派遣労働者からは不満が出ています。
自宅謹慎命令とは,使用者が懲戒処分として,解雇はせずに労働者の出勤を一定期間禁止することをいいます。懲戒休職処分などともいわれます。
この場合には,法令上の規制がなく,ほかの一般的な自宅待機命令とは異なり,使用者は,労働者が出勤しない期間の賃金を支給せず,勤続年数にも算入しないとする扱いが多いとされています。もっとも,懲戒処分の一環なので,就業規則上の根拠があることが必要です。
なお,出勤停止の期間は1週間程度が一般的ですが,期間があまりにも長期化する場合には,労働者に重大な不利益が生じるため,裁判でもその自宅謹慎命令の有効性は厳しく判断される例が多いようです。
自宅待機命令とは,使用者が懲戒処分をするかどうかについて調査し決定するまでの間,勤務することを禁止する場合や,使用者が従業員を出社させるのが不適当と認める事情がある場合に行われる出勤停止措置のことをいいます。
懲戒処分としてなされる自宅謹慎命令も自宅待機命令といわれることがありますが,厳密には,両者は似て非なるものです。自宅待機命令はあくまで業務命令であり,懲戒処分ではありません。
基本的には,労働者が労働を提供する権利(就労請求権)はないと考えられており,賃金が支払われ,濫用とならない限りは,使用者は就業規則などの根拠がなくても,業務命令として自宅待機命令を発することが認められます。
なお,事故が発生する恐れや,不正行為再発の恐れがあるなどの実質的な理由がない限り,賃金を支払わないで自宅待機命令を発することは認められないものとされています。
死亡退職金とは,死亡した労働者に支払われるべきであった退職手当金や功労金などのことをいいます。
典型的なケースが,在職中に従業員が死亡して死亡退職となった場合に,退職金規定に基づいて遺族などに支払われるものです。死亡退職金とは別に,弔慰金が遺族に支給される会社もあります。
死亡退職金は,受給権者が法律や退職金規定によって定められていることがほとんどです。このような場合には,死亡退職金を相続財産と考えるのか,受給権者である遺族固有の財産と考えるのかについて争いがあります。
退職金の賃料の後払い的な性格を考えた場合には,相続財産とするのが自然です。また税務上は,死亡退職金はみなし遺産とされ,相続税の対象とされます(被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した場合)。いっぽう,退職金の生活保障的性格を考えた場合には,受給権者である遺族固有の財産として扱われることになります。これらの判断は,ケースによってさまざまですので,専門家に相談されることをおすすめいたします。
始末書とは,職場の規律違反行為等に対する謝罪と,将来同じ行為を繰り返さないという旨の誓約を内容とする文書のことをいいます。
始末書は,労働者が懲戒処分(規律違反行為に対する制裁)を受ける際に,使用者に対して提出するものです。独自に始末書の提出のみを命じられることもありますが,現実には,譴責処分(けんせきしょぶん)・戒告処分とあわせて始末書の提出を命じられることが多いようです。懲戒処分としては非常に軽いものに分類されるため,使用者の裁量の範囲内であるとされ相当性が認められることが多く,始末書の提出について争われることも滅多にありません。
始末書の提出は,始末書自体が従業員の意思を表明する書面であることから,業務命令として強制することはできないとされています。したがって,始末書を提出しなかったことについて懲戒処分などのさらなる制裁を科すことはできず,また,それを理由に解雇した場合には,不当解雇であるとして取り消される場合があります。
社外通報とは,内部通報のうち,勤務先以外の機関等に対して行う告発行為をいいます。
公益通報制度では,監督官庁以外のその他の機関等への通報について,特に社外通報といわれることが多く,勤務先やその関係者に重大な不利益が発生するおそれがあるため,労働者が保護される要件が特に厳しく規定されています。
具体的には,(1)不正の目的ではないこと,(2)法令違反行為が生じたと信じたことに相当の理由があること(まさに発生しようとしている場合も含む),(3)通報を必要とする危険な状況等が生じていること,(4)通報先が被害の拡大等を防止するために必要であると認められる者であること,の4つを満たす内部通報である必要があります。
特に(4)の通報先については,それを明らかにすることで勤務先に対する守秘義務が問題となる可能性もあるため,その他の要件を満たすかの判断も含め,弁護士や弁護士会等の専門窓口に相談することが推奨されています。
就業規則とは,使用者が,労働者の労働条件の画一化・明確化のため,労働者が守るべき服務規律・職場規律を含む労働条件の詳細について定めた規則のことです。
常時10人以上の労働者を使用する事業者は,必ず就業規則を作成し,行政官庁に届け出る必要があります。また,就業規則に必ず記載しなければならないものとして,労働時間や賃金,退職に関する規定などがあげられます。
なお,就業規則は,労働条件・服務規律の統一的かつ公平な決定のために重要な機能を有するいっぽうで,使用者が一方的に作成するものであることから,無条件で定めることはできません。
就業規則は,法令または当該事業場で適用される労働協約に反してはならず,労働基準監督署は,これに違反する就業規則の変更を命じることができます。また,就業規則が法令または労働協約に違反した場合,その部分については労働契約の内容にならず,無効となります。
特に,懲戒解雇処分に関しては,就業規則にその事由が記載されている必要があり,記載のない事由で懲戒解雇処分を行うことは不当解雇にあたるため,無効となります。
住宅手当とは,法律上の明確な定義はありませんが,通常,勤務先から従業員等に対して住居費(家賃,住宅ローン)を補助するために支給される金銭をいいます。
住宅手当は,家族手当や地域手当等と同様に法律上必ず支払わなければならないというものではなく,勤務先の福利厚生の一環として支払われているもののため,支給の有無や金額は勤務先ごとに異なります。
ただし,住宅手当は,家族手当,地域手当と同様,就業規則等により社内で制度化されていた場合には,労働基準法上の「賃金」にあたるため,制度化されている限りにおいて,労働基準法による各種保護を受けることになります。
なお,時間外労働等を行った場合に支払われるべき割増賃金を計算する際の基礎賃金からは,住宅手当が除外される場合がありますので,注意が必要です。
宿日直とは,宿直と日直が合わさったことばであり,前日または翌日の宿直と日直を兼務することをさします。
勤務時間が長時間におよぶことから,労働基準法施行規則23条では,「宿直又は日直の勤務で断続的な業務」について,所轄の労働基準監督署長の許可を受けた場合にのみ,1日8時間労働の制限,週40時間労働の制限(労働基準法32条)を受けないと定められています。
ここでいう「断続的な業務」にあたるか否かは,手待ち時間の多さを目安に決まります。手待ち時間が実作業時間を超えるかそれと等しい場合には,「断続的な業務」にあたり,通常の労働と比べて身体的・精神的負担が少ないとされることから,許可を得て労働時間の制限を受けないこととされているのです。
出勤停止処分とは,労働契約を継続しつつ,制裁として,一定期間労働者の就労を禁止する処分のことをいいます。自宅謹慎命令,停職処分,懲戒休職処分ともいいます。制裁ですので,その期間の賃金は支払われないことになります。
このように,出勤停止処分は賃金獲得の機会を奪う重い処分であるため,懲戒事由の重さや期間の長さを考慮し,その相当性には慎重な判断がなされます。そのため,出勤停止処分が,懲戒事由と比べてあまりに重い処分である場合,相当性を欠く処分であるとして会社の懲戒権を逸脱すると判断されることがあります。
なお,出勤停止処分と似て非なるものとして,自宅待機命令があります。これらは,制裁ではなく業務命令であり,労働者はその命令に従っているにすぎないため,その間の賃金は支払われます。
出勤簿とは,使用者が労働者の労働時間等を管理するために作成する帳簿のことです。
労働基準法では,109条において,使用者に対して「労働関係に関する重要な書類」を3年間保存することを義務付けています。出勤簿が作成されている会社の場合,出勤簿はこの「労働関係に関する重要な書類」にあたるため,3年分を保存しなければなりません。
残業代を請求する場合,残業をしていたことの証明が非常に重要になります。出勤簿があれば,残業をしていたことの有力な証拠となることが多いのですが,出勤簿は労働基準法で作成が義務付けられているものではないことから,証拠として存在しないことも往々にしてあります。
タイムカード等出勤簿に代わり得るものがあれば,それもまた有力な証拠となりますので,残業代の請求を考えている方は,まずご自身の会社がどのように労働者の労働時間を管理しているかということを把握することをおすすめします。
出向命令とは,現在の使用者との間の労働契約を維持したまま第三者に労務を提供する「出向」を,使用者が命じることをいいます。
出向は,労働者の地位に重大な変更が生じるため,「出向を命じることができる」のは, 労働契約,就業規則,または労働協約に労働者の出向に応じる義務があらかじめ定められており,さらに,出向によって,労働条件等が労働者に不利にならないよう出向規定等が定められている場合に限られます。このような条件を満たしていれば,労働者の個別の同意までは不要であるとされています。
とはいえ,上記の場合でも,労働契約法上,出向命令には労働契約法による一定の規制が存在します(労働契約法14条)。出向命令について,出向の必要性,対象者の選定に関する事情,その他の事情を考慮して,使用者がその権利を濫用したと評価できる場合には,その命令は無効となる場合があります。
なお,出向命令とは似て非なるものとして転勤命令があります。転勤命令は,同じ使用者の下で,現在の勤務地から別の勤務地へ移動することを命令するものですので,労務を提供する相手が変わらない点において,出向命令とは大きく異なります。
出張命令とは,使用者が業務上の必要に応じて,労働者に対し通常の勤務地とは異なる場所に出向くことを命じる業務命令をいいます。
会社は,業務の必要があれば出張を命じることが可能で,労働者がこれを拒否した場合には,業務命令違反とされることがあります。通常,会社の就業規則などでは,懲戒事由として「正当な理由なく業務に関する上長の指示に反抗し職場の秩序を乱したとき」といった規定が定められており,出張命令拒否は,懲戒事由となり得るので,これを理由に懲戒処分がされる可能性もあります。
ただ,この出張命令は,労働者に対し,業務の必要性に応じて命令をする裁量権の範囲内で行われるべきであり,出張命令が裁量権の逸脱するような場合には,出張命令自体が無効とされ,出張命令拒否を理由とする解雇も無効とされます。たとえば,合理的理由なく遠隔地への長期出張を命じる場合には,出張命令自体が無効となる可能性があります。
障害者雇用促進法(正式名称:障害者の雇用の促進等に関する法律)とは,障害を持っている方の雇用の促進や職業の安定を図ることを目的とした法律です。
障害者雇用促進法では,事業主に対して,障害者雇用率に相当する人数の身体障害者・知的障害者の方の雇用が義務づけられています。同法で定められている法定雇用率は,民間企業では1.8%,国・地方公共団体では2.1%,都道府県等の教育委員会では2.0%となっています。しかし,実際に法定雇用率を達成している企業は47%(平成22年度)にすぎず,中小企業では特に対応が遅れています。
なお,法定雇用率に満たない場合,障害者雇用納付金制度により,事業主は,法で定められた雇用者数に不足している人数ひとりにつき5万円が徴収されます。また,厚生労働大臣から改善の勧告を受けたにもかかわらず,雇用環境が是正されない場合には,事業者名が公表されることもあります。
反対に,法定雇用率を超えて障害をお持ちの方を雇用している場合には,法で定められた雇用者数を超えて雇用している人数ひとりにつき月額2万7000円の障害者雇用調整金が支給されます。
障害者雇用促進法では,障害を持っている方が一般労働者と同じ水準において雇用される機会を設けるために,事業主に対して,一定の割合の身体障害者・知的障害者の方の雇用を義務づけています。その割合のことを障害者雇用率といいます。
障害者雇用率は,その受け入れ先によって以下のように異なります。
なお,法定雇用率に満たない場合,障害者雇用納付金制度により,事業主は,法で定められた雇用者数に不足している人数ひとりにつき5万円が徴収されます。また,厚生労働大臣から改善の勧告を受けたにもかかわらず,雇用環境が是正されない場合には,事業者名が公表されることもあります。
反対に,法定雇用率を超えて障害を持っている方を雇用している場合には,法で定められた雇用者数を超えて雇用している人数ひとりにつき月額2万7000円の障害者雇用調整金が支給されます。
紹介予定派遣とは,企業が労働者を直接雇用しようとする場合において,まず派遣労働者として使用することによって,採用予定者の能力・適正を考察し,派遣期間終了時に企業と本人が合意した場合には従業員として採用する制度です。
紹介予定派遣は,直接雇用を考えている企業と派遣労働者双方にとってメリットのある制度です。
まず,企業にとっては,雇用を伴わない形態で,業務に対する適正・勤務態度等を見極めることができ,法令が定める厳格な解雇規制に関するリスクを減らすことができます。また,派遣労働者にとっても,実際に現場で働かなければわからない職場環境等を観察することができるので,不幸な「雇用のミスマッチ」を避けることができます。
紹介予定派遣は,派遣先での直接の雇用を前提としているため,一般の派遣とは異なり,派遣期間は6ヵ月間に制限されるほか,派遣先は,事前面接や履歴書の提出を求めることができます。
試用期間とは,会社が従業員を採用するにあたって,入社後の一定期間をいわば見習い期間とし,この間に能力・人格等の正社員としての適格性を評価し,本採用するかどうかを判断するという制度です。
この期間は,一般的には1ヵ月から6ヵ月ですが,期間についての法律上の定めはありません。もっとも,試用期間が長期にわたる場合は無効となる可能性があります。
会社は,試用期間中に正社員としての適格性を考慮し,適格性がないと判断した場合には,本採用の拒否(解雇)をすることができます。いっぽうで,本採用を拒否されることなく試用期間が満了した場合は,正社員として雇用されたということになります。
また,試用期間の延長については,試用期間中の従業員の立場を不安定にすることになるため,就業規則等で延長に関する具体的な事由を明記しない限り,法的な効力は認められないとされています。
なお,会社は,従業員が試用期間中であっても,社会保険および労働保険の加入手続をする義務があります。
証拠保全手続とは、残業代に関する証拠が会社に保管されている場合に、裁判所を利用して証拠を確保する手続です。証拠保全手続は、たとえば、「証拠を改ざん・破棄される危険性が高いと裁判所が判断した場合」など、「訴訟提起後など本来の証拠調べの時期まで待つと、裁判所がその証拠を調べることができなくなったり、困難になったりするおそれがある場合」に限り、利用できます。
証拠保全手続は、裁判所への申立書の提出などが必要であり、比較的複雑な手続です。
所定労働時間とは、会社が就業規則や雇用契約書によって定めることができる、契約上労働者が働かなければならない労働時間のことです。
たとえば、9時~18時が定時で、1時間の休憩があれば、所定労働時間は8時間となりますし、9時~17時が定時で、45分の休憩があれば、所定労働時間は7時間15分となります。
ただし、所定労働時間は、変形労働時間制などの例外を除き、法定労働時間を超える時間を設定することはできません(労働基準法第13条)。
労働基準法において,「使用者」とは,「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について,事業主のために行為をするすべての者」とされています(労働基準法10条)。また,ここで明示されている事業主はもちろんのこと,取締役・執行役等の経営担当者,労務担当者や人事担当者等の人事労務管理権限を持つ者も,ここでいう「使用者」にあたります。
なお,労働基準法上の「労働者」とは,「使用者に使用されて労働し,賃金を支払われる者」とされているため(労働基準法2条1項),事業主と使用関係にある,いわゆる従業員兼取締役(代表権限のない者)や労務・人事担当者は,「使用者」でもあり「労働者」でもあるということになります。
賞与とは,労働者に対し,給与・各種手当とは別に支給される金銭のことをいいます。いわゆるボーナスのことです。
賞与は,法律上,その支払が使用者に当然に義務付けられているわけではありません。就業規則等で支給基準が明記されていて,初めて使用者に支払義務が発生します。また,このような場合には,法律上「賃金」にあたり,原則として通貨で直接全額を支払うというルールが適用されることになります。
賞与は,就業規則等により具体的な支給額や支給基準が定まっていなければ,具体的な請求権は発生しないものとされています。たとえば,ボーナスのカットがあった場合に,それまでの間に定額のボーナスを支給されていたとしても,それが単なる慣行としてなされていたにすぎない場合には,従来の金額の支払を請求することはできません。
なお,賞与について,「賞与の査定期間に働いていても,支給日に在籍していない労働者には支給しない」としている場合が多いのですが,自主退職ならともかく,会社都合の解雇や定年退職の場合にもこのような支給日の在籍要件は有効とされるべきか、という問題があります。
この点について判例は,退職の種類を区別することなく,賞与の支給日の在籍要件を有効としています。
嘱託職員とは,正社員とは異なる契約によって勤務する準社員の一種であり,その名の通り嘱託を受けて短期で勤務する職員をさす用語として用いられることが一般的です。
ただし,嘱託を受けて勤務するとはいえ,業務委託契約とは異なる雇用関係にあることから,その規律には,労働基準法が適用されます。法的に明確な定義はないため,賞与の有無や労働時間等の雇用条件は会社との労働契約ごとに異なります。また,一般的な非正規雇用の職員を広く嘱託職員と定義している会社も存在します。
嘱託職員の実態は契約社員であり,非正規雇用に該当するため,法的な取扱いも,契約社員に準じることとなります。たとえば,更新が何度も繰り返されているような場合においては,更新拒絶が許されない場合もありますし,実質的に見て解雇と同視されることもあり得ます。また,名目が嘱託職員であっても,法律上は実態に即した判断がなされることから,正社員と同様に保護される場合もあります。
職務懈怠(しょくむけたい)とは,労働の遂行が不適切なことをいい,無断欠勤,出勤不良,遅刻過多,職場離脱等の職務規律違反から,個別の業務命令違反まで広く含まれます。
職務懈怠は懲戒事由とされていることが多く,どのような懲戒処分が適切かという点は,職務懈怠の内容によって異なります。
もっとも,単独では軽微な職務懈怠であっても,再三にわたる注意にもかかわらず行動を改めないような場合には,懲戒処分の内容が重くなることがあるので,どのような処分が適切かということはそれぞれの事情によります。一般的に,会社に損害を与えるような職務懈怠では,懲戒処分も重くなるという傾向があるようです。
職務懈怠の内容が業務命令違反の場合,その業務命令が有効であるからといってただちに懲戒処分が有効となるわけではありません。会社には,業務命令について広範な裁量が認められていますが,業務命令が有効であっても,それに対する情報提供が不十分だったような場合には,その業務命令を断ったことをもって懲戒解雇することは,権利濫用であるとした裁判例も存在します。
職務手当とは,特定の職務を行っている従業員に対して支給される手当であり,通勤手当,役付手当,職務手当等と同じく,基本給以外に諸費用として支払われる賃金のうちのひとつです。
職務の難易度や必要性等に対応して支払われることが通常で,技能手当,特殊勤務手当,特殊作業手当等も同種のものと考えられます。これらは,諸手当のうちの仕事手当に入ります。法律上当然に支払われるものではなく,賃金規定,雇用規定等により会社ごとに定められた規定によって支払われます。この点は他の手当の場合と同様です。
しかし,家族手当等の生活手当が,労働基準法第37条4項によって割増賃金算定の基礎から除外されているのに対して,職務手当は,役付手当などと同じく仕事手当であり,従業員の個々の業務に応じて支払われるため,残業代等の割増賃金算定の基礎になります。ただし,退職金額の算定の基礎になるかどうかは,その会社の職務規定によります。
人員整理とは,経費を削減することなどを目的に,会社が従業員を解雇することをいいます。
人員整理による解雇は整理解雇と呼び,労働者の病気や違反行為など労働者側に原因がある解雇とは異なり,会社が経営上の理由により解雇することから,労働者を保護するための制限が課せられています。
最近の裁判例によると,次の1から4の事情があるかどうかで解雇の有効性が判断されています。
人事異動とは,労働者の企業組織内における地位や処遇の変動をいいます。
使用者の権限,すなわち人事権(業務命令権ともいわれる)は,広い意味では,労働者を企業組織の一員として受け入れ,組織の中で活用する一切の権限を含むものとされています。
人事異動は,具体的には配置転換,転勤命令,出向命令,転籍命令などをさし,「業務命令」として使用者から命ぜられることが多いものです。このような業務命令の行使に関しては,一般に使用者側の裁量に委ねられています。
ただし,その業務命令が有効かどうかは,個別に議論があるところです。また,その業務命令権も無制限のものではありません。業務命令権の根拠は労働契約にあるため,その契約自体に反する命令は,単なる「労働契約変更の申し込み」にすぎないと考えられています。
また,強行法規違反の命令(たとえば,組合差別的な命令)は,そもそも無効です。また,使用者は,業務命令権を有する場合でも,その濫用は許されません。そのため,権利濫用と認められた命令は無効となり,労働者がそれに従う義務はないと考えられています。
成人を深夜に労働させた場合は,深夜割増賃金を支払う必要があります。しかし子供の場合は,原則として,そもそも深夜に労働をさせてはならないという制限がかかります。具体的には,満18歳未満の者については,午後10時から午前5時までの間の労働は禁止されています。
また,満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終わるまでの児童については,そもそも働かせてはいけないという原則がありますが,例外的に働かせることが許される場合でも,午後8時から午前5時までの間の労働は認められていません。
ただし,たとえば災害時や,その他の非常事由などで行政官庁から許可を受けた場合,満16歳以上の男性でかつ交替制勤務の場合などは,深夜であっても例外的に働くことができるとされています。
深夜割増賃金とは,午後10時から午前5時までの間に行った労働について支払われる割増賃金のことをいいます。
法律上,割増率は25%以上と定められています。「以上」ですので,少なくとも25%は割り増す必要があり,会社や雇い主がそれ以上の割増しを行うというのであれば,これを禁止する理由はありません。
割増賃金は,深夜労働以外にも,時間外労働をした場合には時間外割増賃金が,休日労働をした場合には休日割増賃金がそれぞれ支払われます。
また,深夜における労働は,時間外である場合と休日である場合とでそれぞれに重複する場合があります。この場合の割増率は,25%以上からさらに上がります。時間外労働と深夜労働が重複した場合は50%以上,休日労働と深夜労働が重複した場合は60%以上の割増を行う必要があります。
正社員とは,一般的に期間の定めがなく常勤(フルタイム)で雇用されている労働者のことをいいます。
パートタイマーやアルバイト,派遣労働者(派遣社員)および嘱託職員(嘱託社員)などの非正規雇用の労働者との対比で用いられます。
しかし,法律上は,労働者とは,職業の種別を問わず事業に使用される者で,賃金を支払われる者と定義されているため(労働基準法9条),正社員とそれ以外の雇用形態の労働者とで法律上の区別がされているわけではありません。
最近では,正社員以外の労働者の雇用が進み,厚生労働省の「平成22年就業形態多様化に関する総合実態調査」によると,正社員以外の労働者がいる事業所は77.7%になり,就業形態別では,パートタイム労働者がいる事業所の割合がもっとも高く,全体の59%となっています。
誓約書とは,一般的には社員が入社後に遵守すべき事項と,それを社員が遵守することを誓う旨の内容が記載され,企業が新しく入社する社員に署名と捺印,提出を求める書面のことをいいます。
誓約書に記載される内容は,各企業により多岐にわたりますが,多くの誓約書では,就業規則を遵守すること,会社の信用を失墜させるような行為をしないこと,故意または重大な過失により会社に損害を与えた場合には,損害賠償責任を負うこと等が記載されています。
上記のような誓約書によく記載されている内容は,雇用契約書にも記載されていることが多く,誓約書そのものが独立して大きな法的意味を持つということは少ないと思われます。
なお,書面の内容が誓約書となっていても,実質的にみて,入社する者以外の第三者が,入社する者の身元を保証する旨の記載になっている場合には,通常の身元保証人と同じように,「身元保証に関する法律」の適用があると考えられます。
会社が人員整理(いわゆるリストラ)をするために,従業員を解雇することになった場合,このような人員整理のための解雇を「整理解雇」といいます。
整理解雇は,労働者の病気や違反行為など労働者側に原因がある解雇とは異なり,使用者が経営上の理由により解雇するため,労働者を保護するためのさまざまな制限があります。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは,労働者の意に反する性的な言動をいいます。
主に男性から女性への行為を想定したものでしたが,平成18年の男女雇用機会均等法の改正により,女性労働者だけでなく男性労働者も対象となりました。
セクシャルハラスメントは,対価型セクシャルハラスメントと環境型セクシャルハラスメントの2つの類型に分けられます。
対価型セクシャルハラスメントは,労働者の意に反する性的な言動を行い,労働者の対応によって当人が解雇,降格,減給などの不利益を受けることをいいます。いっぽう,環境型セクシャルハラスメントは,はっきりとした経済的な不利益を伴わないものの,労働者の意に反する性的な言動が繰り返されることにより,就業環境が悪化し就労意欲の低下を招くなど,労働者の能力の発揮に重大な悪影響が出ることをいいます。
男女雇用機会均等法と同法に基づく指針では,セクシャルハラスメントの防止策および解決策として,(1)セクシャルハラスメントに関する会社の方針(行為者を懲戒処分の対象にすることなど)を明らかにし,(2)会社内外に相談窓口を設けること,(3)相談後の迅速な対応(事実関係を確認したうえ,行為者を適切に処分し,被害者に対する配慮を行う)など,雇用主の雇用管理上の措置義務を定めています。
全額払いの原則とは,賃金は通貨で労働者に直接,その全額を支払わなければならないという原則をいいます(労働基準法24条1項)。
通貨で支払わなければならないとされている部分に焦点を当てると,「通貨払いの原則」,労働者に直接支払わなければならないとされている部分に焦点を当てると,「直接払いの原則」とも呼ばれます。
これらは,会社の不当な搾取を防止し,労働者の生活を保護するための制度です。
たとえば,賃金が通貨で支払われずに現物支給された場合,労働者は貯蓄をすることができないため,待遇に不満があっても転職することができず,その会社の下で働き続けなければならなくなります。
また,労働者に直接支払われずに,職業仲介者等を通じて支払われた場合,その仲介者が不当に利益を横取りするかもしれません。さらに,全額が支払われず,何らかの理由で減額して支払うことを許せば,労働者は弱い立場であるだけに,その減額が不当であっても,抗議することができないことになります。
このような事態を防止するために,これらの原則によって労働者を保護しているのです。
早期退職優遇制度とは,退職金の増額など有利な条件を提示することで,定年前の労働者に退職を促す制度のことをいいます。
この制度は,募集期限の定めがなく,条件は退職者の年齢のみとなっているなど,緩やかなものが多く見られます。そのため,組織を活性化することや,早期に退職を希望する従業員を優遇する目的で行われることが一般的です。
また,同じく退職金が増額される制度として希望退職制度がありますが,募集期限,退職者の年齢,部署など,早期退職優遇制度と比べて期間や条件の設定が厳しい傾向にあります。そのため,希望退職制度は,事業縮小等に伴うリストラや人員整理といった,整理解雇の前段階として行われる場合が多く見られます。
なお,早期退職優遇制度については,従業員にメリットがあることが多く,その適用を受けられなかった従業員と企業の間で争いになることがあります。
裁判例によると,会社の承諾を条件にしている早期退職優遇制度において,承諾を得られなかった従業員が退職金の割増分を請求した事例について,厳しい判断がされた事例があります。会社の承諾は,優遇された条件で退職するか否かにかかわるものであり,従業員の退職の自由そのものを制限するわけではないからです。
相当性の原則とは,会社が労働者を解雇する場合,解雇に客観的で合理的な理由がなく,解雇が相当であると社会通念上認められない場合には,解雇は無効になる原則のことをいいます。
以前から,客観的に合理的な理由を欠き社会通念上解雇は相当ではない場合には,解雇は権利の濫用となり無効であるとの判断が実務上も定着していましたが(解雇権濫用法理),労働契約法の制定にあたり,この原則が明文化されました(労働契約法16条)。この相当性の要件を満たさない解雇は不当解雇になり,無効となります。
また,相当性の原則は,懲戒解雇処分や諭旨解雇処分など,会社が労働者に対して懲戒処分をする場合にも適用されます。そのため,会社が労働者に懲戒処分を行うためには,労働者の行為の性質および態様などの事情に照らして合理的な理由が必要であり,かつ社会通念上も懲戒処分が相当であると認められることが必要です(労働契約法15条)。
使用者が労働者を即日解雇することは,不当解雇にあたるため,原則として認められていません。
労働者は急に解雇をされても,すぐに再就職などができるわけではありません。そこで,労働者の再就職や生活の立て直しするための時間的余裕を確保することを目的に,解雇をするためには30日前に解雇予告を行う必要があると定められています。
解雇予告をせずに即時解雇をする場合,使用者はその労働者に対して,30日分以上の平均賃金(予告手当)を支払わなければなりません。急な解雇であったとしても,30日分以上の賃金が支払われるならば,再就職等の一応の準備ができるからです。
例外的に,天災事変などで事業の継続が不可能となった場合,あるいは労働者の責任によって懲戒解雇される場合で,所轄の労働基準監督署長の許可があった場合には,即時解雇が認められます。また,1ヵ月以内の日雇い労働者や2ヵ月以内の期間を定められた労働者など一定の労働者についても,即時解雇が認められる場合があります。
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