残業代請求に関する基礎知識

未払い残業代の時効とは?3年への法改正と起算点、時効の援用などの法的仕組みを解説

目次
  1. 未払い残業代請求の時効
    1. 残業代請求の時効は「3年」に延長されている
    2. 本来の時効は「5年」。現在は移行期間
    3. 時効の「起算点」とは?
    4. 時効の援用
  2. 時効を過ぎても残業代を請求できる例外
    1. 例外①会社が時効の援用をしない場合
    2. 例外②残業代の未払いが不法行為にあたる場合(民法第724条)
    3. 例外③時効の援用が権利の濫用にあたる場合(民法第1条3項)
  3. 残業代請求の時効を止める方法
    1. 時効の完成猶予(一時停止)
    2. 時効の更新(リセット)
    3. 【今すぐ時効を止めたい方へ】
  4. まとめ

未払い残業代請求の時効

未払い残業代には「時効」が存在し、一定の期間が過ぎると法的に請求する権利が消滅してしまいます。しかし、「いつから数えて何年なのか」「時効が成立するための条件とは何か」など、正確な法律の仕組みを理解している方は多くありません。
このページでは、法改正に伴う未払い残業代の時効期間の変化やカウントダウンが始まる「起算点」、会社側が主張する「時効の援用」といった法的知識について網羅的に解説します。

残業代請求の時効は「3年」に延長されている

現在の労働基準法において、未払い残業代を請求できる権利の時効(残業代請求の消滅時効)は原則3年と定められています。

かつて未払い残業代の時効は「2年」でしたが、2020年(令和2年)4月1日に施行された改正労働基準法により期間が延長されました。これにより、2020年4月1日以降に支払期日が到来した未払い残業代については、過去3年分までさかのぼって請求することが可能です。
一方で、3年以上前に発生した未払い残業代は時効により消滅してしまいます。

残業代請求の消滅時効(3年)を表す図解。2023年4月に請求する場合、2020年4月以降の過去3年分が請求可能で、それ以前の残業代は消滅することを示している

本来の時効は「5年」。現在は移行期間

実は、改正された労働基準法における本来の時効期間は「5年」と明記されています。しかし、企業への影響を考慮して、現在は「当分の間は3年とする」という猶予措置(移行期間)が取られています。
将来的には5年に延長される可能性がありますが、現時点(※)で請求できるのはあくまで「過去3年分」である点に注意が必要です。

※2026年6月時点

時効の「起算点」とは?

未払い残業代の時効期間を数え始めるタイミングを、法律用語で「起算点(きさんてん)」と呼びます。

未払い残業代の時効の「起算点」は、本来その残業代が支払われるはずだった「賃金の支払日(=給料日)」の翌日です。「残業をした日」ではありません。

法律上、時効期間の経過がはじまるのは「権利を行使できる状態になったとき」と定められており、賃金の場合は「賃金の支払日」が「権利を行使できる状態になったとき」にあたります。
ただし、実際には、民法の「初日不算入の原則」に則り、賃金支払日の「翌日」からカウントします。

たとえば、毎月末締め、翌月25日が給料日(=賃金の支払日)であれば、4月分の残業代が翌月の5月25日に支払われなかった場合、5月26日から時効期間を数え始めます。

残業代時効の起算点とタイムラインの図解。給料日(2020年5月25日)の翌日である5月26日を起算日とし、3年後の2023年5月25日に時効となることを解説した図

時効の援用

残業代請求の時効は、賃金の支払い義務のある会社が「時効の援用」をすると完成します。「援用」とは、時効の利益を受ける意思表示をすることです。

時効の期間(3年)が過ぎたからといって、自動的に未払い残業代を支払う義務が消滅するわけではありません。時効を成立させるには、会社側が労働者に対して「時効が成立しているため、残業代は支払いません」と明確に主張する必要があります。これを法律用語で「時効の援用(えんよう)」と呼び、会社側が時効の援用をして初めて、労働者の請求権は法的に消滅します。

つまり、未払い残業代を請求したときに、会社が「時効だから残業代は支払わない」といった主張をすると、時効の効力が発生し、時効期間よりも前の残業代は請求できなくなります。

時効を過ぎても未払い残業代を請求できる例外

原則として、3年が経過し、会社が時効を援用した場合は残業代を請求できません。
しかし、以下のような例外的なケースでは、期間を過ぎていても請求が認められる可能性があります。

例外①会社が時効の援用をしない場合

時効期間が経過していても、会社が時効の援用をしなければ、時効の効力が発生しないため、時効期間を超えて残業代を請求できることになります。
また、会社が一度支払いに応じた場合には、原則として時効の援用はできなくなるため、請求した金額を全額支払わなければなりません。

ただし、ほとんどの場合、会社は未払い残業代を請求された時点で顧問弁護士などに相談すると考えられるため、そのまま支払いに応じるとは考えにくく、「会社が時効の援用をしない」ということはほぼありません。

【時効の援用権を失うケース】

  • 時効期間の経過後に、未払いの事実を認めて「少し待ってほしい」「一部だけ支払う」などと対応した

例外②残業代の未払いが不法行為にあたる場合(民法第724条)

会社による残業代の未払いが不法行為にあたる場合、「損害賠償」として賠償金請求をすることになり、残業代請求権の時効ではなく、損害賠償請求権の時効が適用されます。損害賠償請求権の時効は、損害と加害者を知ったときから3年であり、残業代請求の時効を過ぎてからも請求できます。

ただし、不法行為とされるのは相当悪質なケースに限られるため、不法行為にあたると認められるのはまれです。

例外③時効の援用が権利の濫用にあたる場合(民法第1条3項)

会社側が労働者に対して嘘をついたり、日報などの開示請求を拒否し続けたりした結果、時効期間が経過してしまったようなケースです。
信義誠実の原則に反するため、会社側の時効の援用(主張)は認められない可能性があります。

未払い残業代請求の時効を止める方法

未払い残業代の時効の進行を止めたい場合は、法的な手続が必要です。「完成の猶予(一時停止)」「時効の更新(リセット)」をすることで止めることができます。
時効が更新されると、時効期間が一旦リセットされるため、更新されたときから再度時効期間が経過するまで残業代請求ができるようになります。

時効の完成猶予(一時停止)

時効の完成猶予(一時停止)により、一時的に時効の進行を止めることができる、つまり、時効で残業代請求ができなくなる時期を遅らせることができます。
具体的には下記のような手続です。

  • 催告
  • 協議を行う旨の合意
  • 仮差押え

など

時効の更新(リセット)

時効の更新(リセット)により、未払い残業代の時効のカウントダウンをゼロにリセットすることができます。
具体的には下記のような手続です。

  • 債務承認
  • 裁判上の請求(労働審判手続申立て、訴訟提起など)
  • 強制執行

なお、裁判上の請求や強制執行の場合には、その手続が終了するまでは、時効は止まったままであり、手続終了後から新たに時効が進行します。

まとめ

未払い残業代の時効は現時点(※)で3年であり、起算点である給料日を過ぎると毎月古いものから順に権利が消滅していきます。法律の仕組みを正しく理解したうえで、手遅れになる前に適切な法的手続をとることが重要です。

※2026年6月時点

【今すぐ時効を止めたい方へ】

「手遅れになる前に、今すぐ時効を止めたい」
「会社にどんな書類を送ればいいのか、証拠はどう集めるのか知りたい」

このような未払い残業代の請求に関する具体的なアクション・手順については、以下のコラムで詳しく解説しています。ご自身の状況に合わせて、すぐにできる対処法をぜひご確認ください。

監修者情報

小野寺 智範
弁護士

小野寺 智範

おのでら とものり
資格
弁護士
所属
東京弁護士会
出身大学
青山学院大学法学部,専修大学法科大学院

弁護士の仕事は,法的紛争を解決に導くことだけでなく,依頼者の方の不安や悩みを解消することにもあると考えています。些細なことでも不安や悩みをお持ちであれば,気軽に弁護士に相談していただけたらと思います。依頼者の方にご満足いただけるリーガル・サービスを提供していけるよう全力で取り組んでいく所存です。

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