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医師に残業代はない?知っておきたい勤務医の給与についての正しい知識

医師のなかには、当直・宿直勤務の際に、「治療等の対応をしなかったから残業代は出ない」と思われている方がいらっしゃるかもしれません。また、「自分の給与は年俸制だから残業代が出ない」、「基本給のなかに残業代が含まれていると言われたので、別途残業代は支払われない」などと思われている方も多いのではないでしょうか。
しかし、それは誤解であり、病院に対して残業代を請求できる可能性があるのです。
そこで、この記事では、医師、特に病院に勤務されている勤務医の方々の残業代請求について解説いたします。

今回の記事でわかること
  • 勤務医は労働者であり、残業代請求は労働者の正当な権利である
  • 当直・宿直勤務における治療対応以外の時間、オンコール待機時間および研鑽のため時間も労働時間と認められる可能性がある
  • 年棒制であるから残業代が出ない、もしくは固定残業代が有効であるとは限らず、残業代を請求できる可能性が高い

勤務医と残業代請求

はじめに、勤務医が残業代を請求できる、その根拠について解説します。

残業代請求は労働者の正当なる権利行使です!

世間が医師に対して期待することのひとつに、人命にかかわる仕事であるため、給料を度外視して昼夜働くことが当然だということがあるのは想像に難くないでしょう。また、医師のなかにも、基本給のほかに残業代の支払いなど考えるべきでないとお考えの方もいるかもしれません。

しかし、勤務医は、病院(正確には医療法人)に雇用された労働者であり、労働者である以上、残業をすれば残業代が発生し、法定労働時間(1日8時間、週40時間。労働基準法32条)を超えて残業をすれば、残業代として割増賃金が発生します(労働基準法37条)。

「当直・宿直勤務のなかで仮眠を取っていた時間や、医師が文献にあたるなどして調査や研究をした時間は、業務を遂行しておらず、労働時間ではない」と病院から言われることもあるでしょう。しかし、これらの時間も労働時間として認められ、法定労働時間を超えるものであれば、残業代として割増賃金が発生する可能性があります。

また、病院は、「年棒制だと残業代は出ない」とか、「基本給のなかに残業代を含めて支給しており、別途残業代は出ない」など言って残業代の支払いをしぶるといったこともよく耳にしますが、これらの発言には法的根拠のないものが多いのです。

昨今のコロナ禍において、医師は給料を度外視して昼夜働くことが当然だとの考えが強まっているのかもしれませんが、先ほどもご紹介したとおり、勤務医の方は労働者であり、残業代を請求することは労働者の正当な権利の行使です。病院のさまざまな言い分をそのまま受け入れるのではなく、ぜひ残業代請求を行うことを検討しましょう。

残業代と割増賃金はどんな時に発生する?

残業代請求を検討するにあたって、残業代や割増賃金がいかなる場合に発生するのかを知っておく必要があります。

一般に使用者は、労働者が業務を開始するとされる時間(始業時刻)および業務を終えるとされる時間(終業時刻)を定めており、これは病院であっても変わりません。この始業時刻から終業時刻までの、休憩時間を控除した時間が、使用者の定める1日の労働時間とされ、これを所定労働時間といいます。
所定労働時間を超えて働かせれば、それは残業となり、使用者は残業代を支払わなければなりません。

「時間外労働」

労働基準法32条では、1日8時間を超えて働かせてはならない、週40時間を超えて働かせてはならないとされており、この労働時間の上限を法定労働時間といいます。所定労働時間は、法定労働時間の範囲で定める必要があります。法定労働時間を超えて働かせた場合、それは「時間外労働」となり、使用者は残業代として割増賃金を支払わなければなりません。

労働基準法37条1項では、「時間外労働」について、使用者は25%以上の割増分を上乗せした割増賃金を支払うものとされ、月の「時間外労働」の残業時間が60時間を超えると、使用者は、60時間を超える分について、残業代として50%以上の割増分を上乗せした割増賃金を支払わなければならないとされています。
なお、次に該当する事業者(中小事業主)については、2023年3月末までは、25%以上の割増率のままとなります。

  • 小売業:資本金5,000万円以下または50人以下
  • サービス業:資本金5,000万円以下または100人以下
  • 卸売業:資本金1億円以下または100人以下
  • その他:資本金3億円以下または300人以下

「深夜労働」

使用者は、午後10時から午前5時の深夜の時間帯に労働者を働かせたときには「深夜労働」として、25%以上の割増分を上乗せした割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条4項)。

「休日労働」

使用者は労働者に毎週少なくとも1日の休日を与えなければならないとされており(労働基準法35条1項)、この週1回の休日のことを「法定休日」といいます。この法定休日に働かせることを「休日労働」といい、使用者は労働者に35%以上の割増分を上乗せした割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条1項、割増賃金令)。

※ 土日2日が休日とされる病院で、日曜日が「法定休日」とされていれば、日曜日に働かせたときが「休日労働」となります。土曜日は「法定外休日」と呼ばれ、土曜日に働かせたときは、それが週40時間を超える労働となれば、「時間外労働」となります。

労働時間該当性とは?

次に、労働時間該当性についてご説明します。当直・宿直勤務において仮眠していた時間のみならず、オンコールの待機時間や研鑽の時間についても労働時間ではないと病院側から主張されることがあります。ここでは、そのような時間が労働時間として認められる可能性について詳しく解説します。

当直・宿直勤務の労働時間該当性

当直・宿直勤務時に、患者が緊急搬送され、その治療対応をされた場合、治療対応に要した時間は労働時間にあたることに争いはありません。
しかし、そうした治療などに対応した以外の時間、たとえば仮眠を取っていた時間は労働時間として認められるのでしょうか。

三菱重工業長崎造船所事件最高裁判決(最判平成12年3月9日)によりますと、労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれていた時間とされ、そのように評価できるかは客観的に定まるものであって、労働契約や就業規則等の定め如何によって決められるものではないとされます。

そして、警備員が事業場内で仮眠を取っている時間の労働時間該当性が争われた事案において、大星ビル管理事件最高裁判決(最判平成14年2月28日)によりますと、“仮眠中であっても、労働契約に基づく義務として、仮眠室での待機および警報や電話に対してただちに相応の対応をすることが義務付けられており、その必要が生じることが皆無に等しいとの事情でもない限り、労働からの解放が保障されているとはいえない”ことを理由として、仮眠していた時間も使用者の指揮命令下に置かれており、労働時間に当たるとしています。

このことから考えると、勤務医の当直・宿直勤務において、仮眠中であっても、急患に即時に治療等の医療行為をなすことが義務付けられているといえ、そうした医療行為による対応が生じることが皆無に等しいとはいえないのであれば、労働からの解放が保障されているとはいえません。仮眠していた時間も、使用者の指揮命令下に置かれており、労働時間に当たるといえます。

よって、当直・宿直勤務においては、仮眠等をしていた時間も含め労働時間とされ、それが法定労働時間を超えるものとなれば、残業代として割増賃金が発生することになります(当直・宿直勤務における時間外労働は深夜の時間帯にかかることが多いと考えられます。この場合、時間外労働と深夜労働の割増率が重複して適用され、50%以上の割増分を上乗せした割増賃金となります)。

なお、当直・宿直勤務について、病院が「監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁(労働基準監督署長)の許可を受けた」(労働基準法第41条3号)ときには、労働基準法の労働時間規制の適用が除外されるため、時間外労働の割増賃金が発生しません(本件では断続的労働、すなわち実作業が長く継続することなく、常態としてほとんど実作業をする必要がなく、非常事態に備え待機する時間で占められるようなものが問題とされます)。

もっとも、断続的労働の許可を受けている病院は多いとはいえません。仮に許可を受けているとしても、当直・宿直勤務の実態として、医療行為の対応が頻繁に求められているのでしたら、病院が、断続的労働の許可を受けていることを理由として、残業代の支払いを拒むことはできないと考えられます。

オンコール待機の労働時間該当性

患者の急変等の緊急事態に対応するため、勤務時間外の医師に携帯を持たせるなどして、自宅等にいても連絡の取れる状態にし、当該医師は、病院からの呼び出しがあれば、即時に病院に向かうことが求められることがあります。これを「オンコール待機」と呼びます。では、こうしたオンコールの待機時間は労働時間といえるのでしょうか。

2-1.の当直・宿直勤務とは異なり、勤務時間外のことであり、病院で待機しているわけでもありません。しかし、オンコールの待機の性質上、飲酒を控えて待機するなど精神的緊張を強いられ、自宅等から離れることができないという意味で場所的拘束を受けていること自体は事実であり、病院からの連絡があれば、即時に病院に向かわなければならないとの拘束も受けております。
そのため、病院から連絡が入る頻度が非常に少ない、もしくは病院からの連絡に応じなかったとしても不利益処分を受けることがないといった事情の有無にもよりますが、
労働からの解放が保障されているとはいえず、労働時間として認められる可能性があります。

オンコール待機時間が労働時間と認められ、オンコール待機時間だけでも法定労働時間を超えるのであれば、残業代として割増賃金が発生します。

なお、奈良県(医師・割増賃金)事件の裁判例(大阪高判平成22年11月16日)において、オンコール待機時間の労働時間該当性が否定されましたが、これは病院の業務命令としてではなく、医師らの自主的な取組みであったとされたものです。オンコール待機が病院の業務命令としてのものでありましたら、異なる結論となった可能性があります。

研鑽時間の労働時間該当性

病院から命ぜられ、医師が治療方法等について文献等にあたり調査をしたり、研究したりする時間が労働時間に該当することは争いがありません。これに対し、病院から命ぜられることなく、医師がそうした調査や研究をした時間は、業務外のものとして、労働時間として認められるのでしょうか。

この点について、厚生労働省から、「医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方について」(令和元年7月1日 基発 0701 第9号労働基準局長通達) との通達が出されました。この通達によりますと、業務上必須ではない行為を、自由な意思に基づき、所定労働時間外に、自ら申し出て、上司の明示・黙示による指示なく行う(研鑽の)時間については、在院して行う場合であっても、一般的に労働時間に該当しないとされます。

もっとも、診療の準備のために不可欠なものや(たとえば、以下の2点など)、診療に伴う後処理として不可欠なものであれば、そうした調査や研究に要した時間は、病院の指揮命令下に置かれたものとして、労働時間として認められる可能性があります。

  1. 患者の治療に有効な手術について、その術式の留意点(予想される合併症等)を調査するため文献にあたる
  2. 特定の患者に投薬治療を予定しており、その使用される薬について副作用を最小限に抑える投薬方法を文献等で調査する

こうした特定の診療の準備のために不可欠なものなどの調査や研究に要した時間を含め、労働時間が法定労働時間を超えるものとなれば、残業代として割増賃金が発生します。

医師の給与に関する間違った考え方

上記1.でも述べましたが、「年棒制だから残業代が出ない」、「基本給のなかに残業代を含めて支給しており、別途残業代が出ない」といった病院からの主張は、いずれも法的根拠に基づくものとはいえません。その理由を詳しく見てみましょう。

年棒制だから残業代は発生しない?

勤務医のなかには、賃金が年棒制の方もいらっしゃいます。年棒制の賃金だからといって、残業代が発生しないということはありません。年俸制の賃金であっても、使用者と労働者の労働契約関係に労働基準法が適用されることには変わりがないからです。病院から、年棒制だから残業代は発生しないと言われたとしても、その主張には法的根拠がないのです。

なお、「年棒のなかに残業代が含まれている」と病院から主張されることもありますが、残業代として支払われた金額が確定できなければ,そのような主張も認められません。

医療法人康心会事件最高裁判決(最判平成29年7月7日)において、医師に対して支払われた賃金のうち、時間外労働等に対する割増賃金として支払われた金額を確定することすらできないため、年俸の支払いにより、医師の時間外労働および深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできないとされております。

固定残業代に残業代は含まれている?

多くの場合、医師は、ほかの業種の労働者に比べ、基本給が高めに設定されていることから、病院が、「あらかじめ基本給に残業代を含めて支給している」、「特定の手当をあらかじめ残業代として支給している」などと主張することがあります。

このように、あらかじめ残業代を基本給に含めて支給したり、特定の手当として支給したりすることは、固定残業代と呼ばれます。
しかし、固定残業代の支給は、就業規則で規定するか、労働契約等によって個別に合意する必要があり、そうした規則の規定や合意がなければ、病院側の主張には法的根拠がまったくないことになります。

そして、固定残業代が有効とされるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と、時間外労働等の割増賃金に当たる部分とが明確に区分できることが必要です(明確区分性の要件。国際自動車事件第2次上告審判決等の最高裁判例において確立された要件です)。

「基本給のなかにあらかじめ残業代を含めて支給している」と病院側が主張しても、何時間分の残業代に相当する割増賃金が含まれているのか、具体的な金額が明示されていないと、基本給のうち、割増賃金に当たる部分を判別することができません。
そのため、規則等に規定があり、労働契約等で個別の合意があるとしても、明確区分性の要件を欠き、固定残業代は無効とされ、残業代がまったく支給されていないものとして扱われます。
仮に固定残業代が有効だとしても、固定残業代が相当する残業時間を超えて残業した場合には、別途残業代を請求することができます。

以上のとおり、「基本給に残業代を含めて支給しているから別途残業代が出ない」との病院の主張には、法的根拠を欠く場合が多く見られます。鵜呑みにしないように注意しましょう。

まとめ

いかがでしたか?
当直・宿直勤務における治療以外の時間等には労働時間と認められる可能性があります。少しでも疑問に思ったら勤務先に問い合わせると同時に、残業代請求に詳しい弁護士などに確認するようにしましょう。

また、「基本給に残業代を含めて支給している」との病院側の主張については、法定根拠がないことが多くありますので、注意しましょう。

勤務医も労働者であり、残業代を請求することは正当な権利行使ですので、躊躇することはありません。もっとも、労働時間該当性や固定残業代の有効性に関する判断は、専門的知識がなければ困難であるため、残業代請求をお考えの場合には、詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。

監修者情報

弁護士

髙野 文幸

たかの ふみゆき

資格
弁護士
所属
東京弁護士会
出身大学
中央大学法学部

弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。

弁護士  正木 裕美  [愛知県弁護士会]

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