労働トラブルコラム

トラック運転手は残業代請求できるケースが多数?証拠集めに有利な可能性も

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インターネットで注文した物が翌日に届く、店頭には24時間あらゆる商品が並んでいる―。私たちが当たり前に過ごしている便利な社会の影で、これを支えているトラック運送業の長時間労働は深刻な問題となっています。

本コラムでは、長時間労働を強いられるにもかかわらず、トラック運転手の残業代が未払いになりやすい理由や、会社側からよくある反論の真偽などについて、解説していきます。

今回の記事でわかること
  • トラック運転手に未払い残業代が発生しやすい理由
  • 会社側の反論と“ウソorホント”を見分けるポイント
  • トラック運転手ならではの残業代請求をする際のメリット
目次
  1. トラック運転手は残業代が未払いになりがち!?
  2. 運送業によくある“残業代のウソ”
    1. 手待ち時間は労働時間に含まれない?
    2. 固定残業代(みなし残業代)以外に残業代は出ない?
    3. 歩合給制なら残業代は出ない?
    4. 交通事故の損害賠償を請求される?
  3. 残業代請求におけるトラック運転手の“強み”とは?
  4. まとめ

トラック運転手は残業代が未払いになりがち!?

近距離輸送から長距離輸送まで、一口にトラック運送業といってもその業態はさまざまですが、一般にトラック運転手は、業務の性質上、長時間労働が生じがちです。たとえば、荷物を準備する荷主の都合から、待機(手待ち)時間が長くなったり、渋滞に巻き込まれても到着時間を厳守できるよう、余裕をもって早めに出発する必要があったりするためです。
また、このような“過酷な労働環境”という業界イメージが人手不足を招き、1人当たりの業務量がさらに増加するという悪循環を引き起こしているとも考えられます。

そして、トラック運送業を営む運送会社は、個人事業主からはじまった小規模な会社であることも多く、労務管理のずさんさや、「残業代など無いのがこの業界の常識だ!」といったワンマンな経営方針を背景に、残業代が未払いになっているケースが多く見られます。タイムカードやパソコンで勤怠管理するデスクワークの方と比べると、勤務が不規則で、かつ、運転時間や速度変化などを記録するタコグラフ(特にアナログタコグラフ)から正確に残業時間を計算するのが煩雑である点も、残業代が未払いになる一因と思われます。

運送業によくある“残業代のウソ”

トラック運転手の方からご相談をお受けした際、「自分で会社に残業代の支払いを求めたけれど、いろいろと理屈をつけて断られた」といったお話を伺うことがあります。また、当事務所がご依頼を受けて運送会社に残業代を請求した場合にも、会社側がさまざまな理屈をこねて、残業代の支払いを断ろうとする例が見られます。しかし、会社側のいう理屈が必ずしも、法的に正しい内容とは限りません。ここからは、運送会社に対する残業代請求でよくある会社側の反論と、その真偽についてご紹介します。

手待ち時間は労働時間に含まれない?

1つ目の反論は、「運転手の労働時間はトラックを運転していた時間だけであって、トラックが停まっていた時間は含まれない」というものです。つまり、デジタルタコグラフであれば「待機」や「積降」といったボタンが押されていた時間、アナログタコグラフであれば速度が0になっている時間はすべて労働時間にあたらない、というのが会社の言い分です。
しかし、判例上、労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」であると定義されています(三菱重工長崎造船所事件:最高裁平成12年3月9日判決)。ごく簡単に言えば、“「次の作業をしてください」という指示があり次第、ただちに作業にあたらなければならないような状態に置かれていた時間”は、労働時間にあたるのです。

このような解釈に基づき、裁判例では、

  • 荷積みを待つ際は、荷積み待ちの車列が進むにつれて自分のトラックも前進させなければならないため、ほとんどトラックを離れられないこと
  • 荷積みが始まる時刻は固定されておらず、荷主の都合によって10分程度前後する場合があること
  • 荷物は冷凍品で、荷積みのあともトラック内の温度管理などを厳格に行う必要があること
  • 配送先での荷降ろしを待つ際も、配送先からの連絡がいつ来るかわからないため、停車したトラックを離れられないこと

などの事情を挙げて、待機時間は休憩時間ではなく、労働時間にあたるとしたものがあります(田口運送事件:横浜地裁相模原支判平成26年4月24日判決)。

常識的に考えても、ただ目的地まで移動することだけがトラック運転手の仕事ではありませんし、いつ積み降ろしが始まるかわからない緊張のなかで車を停めている時間と、完全に手が空いて仮眠をとっているような時間とでは、明らかに性質が違いますよね。
あくまでケースバイケースではありますが、待機時間中の具体的な事情によっては、労働時間にあたる可能性が大いにあるのです。

固定残業代(みなし残業代)以外に残業代は出ない?

2つ目の反論は、「うちは“固定残業代(みなし残業代)”を支払っているから、それ以外に残業代は出ない」というものです。具体的には、“基本給のなかに○○時間分の残業代が含まれている”とか、“○○手当を固定残業代として支払っている”、といった言い分です。どの業種でもありうる反論ではあるのですが、トラック運送業では運行ルートなどに応じてさまざまな手当を設定している会社が多いためか、特によく見受けられます。
確かに、「固定残業代制」、つまり、“あらかじめ想定される残業時間分の残業代を、実際に残業をしたかどうかにかかわらず支払う制度”を採用することは、法律上禁止されていません。しかし、別記事にて詳しくご説明しているように、固定残業代制が法律上有効なものと認められるためには、いくつかの条件があります。単に会社が「これは残業代のつもり」と思って給料の一部を支払っているだけでは、固定残業代とは扱われないのです。

また、仮に固定残業代制が有効だったとしても、あらかじめ想定されていた残業時間を超えて労働者が残業した場合、会社は超えた部分の残業代を支払わなければなりません。ときどき、固定残業代制を「一定額さえ支払えば、労働者を働かせ放題!」という制度だと誤解している会社がありますが、当然ながら、そんな虫のよい制度ではないのです。

歩合給制なら残業代は出ない?

3つ目の反論は、「うちの給料は、仕事の成果に応じて給料が支払われる歩合給制。何時間残業しようと、出した成果が同じなら残業代は出ない」というものです。いくつかの手当を歩合給制で支払っているという運送会社はきわめて多く、当事務所に依頼いただいた方のなかには、「自分は歩合給制だから残業代は無関係」とお考えになっていた労働者の方も少なくありません。

しかし、法律には、歩合給制で支払われる賃金に対しても残業代が発生することを前提とした条文が置かれています(労働基準法施行規則第19条1項6号)。判例でも、“全額が歩合給制で計算され、何時間残業をしたとしても増額されない給料だけでは、残業代を支払ったことにはならない”と判断されています(高知県観光事件:最高裁平成6年6月13日判決など)。月給制などと計算方法は多少異なりますが、歩合給制だからといって、残業代が発生しないわけではないのです。

交通事故の損害賠償を請求される?

4つ目の反論は、「お前は仕事中に事故を起こして、会社に○○万円の損害を発生させた。残業代を請求するのなら、事故の損害賠償を請求して相殺する」というものです。労働者の方が上司に「残業代が未払いになっているので、支払ってほしい」と話を持ち掛けたところ、「それなら、過去に犯した仕事のミスについて損害賠償を請求する!」と脅されたというケースをときどき伺うことがあります。なかでもトラック運転手の方は、常に交通事故と隣り合わせという業務の性質上、たとえば、運転していたトラックをぶつけるなどの損害を生じさせてしまう可能性があるため、特にこの反論がよく出てくるかもしれません。

もっとも、これまでの判例・裁判例によれば、労働者が故意(わざと)や重大な過失によって犯したミスではない限り、労働者が損害の責任を負うのは一部分にとどまります。会社が労働者を働かせて儲けを出しておきながら、業務中に生じた損害だけは労働者に押し付ける、というのは不公平だからです。
さらに、損害額がせいぜい数十万円にとどまるという場合、会社がそれとほぼ同程度の報酬を顧問弁護士に支払ってまで賠償金を請求してくる可能性は、現実的に考えて相当低いといえるでしょう。

残業代請求におけるトラック運転手の“強み”とは?

一方、残業代を請求する場面では、トラック運転手の方ならではの“強み”もあります。

車両総重量や最大積載量などにもよりますが、トラックなどで貨物を運ぶ運送会社には、運転日報やタコグラフで運行時間などを記録して、それを1年間保存することなどが法令で義務付けられています(貨物自動車運送事業輸送安全規則第8条、第9条など)。本来は基本的にどのような業種でも、労働者の勤怠管理を適切に行うことが会社側の義務とされている(労働安全衛生法第66条の8の3)のですが、運送業以外の業種では、勤怠管理が適切になされていない会社も時折見かけられます。これに対し、運送会社では、前述した業法上の理由から、勤怠管理資料が保存されているケースがほとんどです。勤怠管理資料は、残業代を請求するうえでとても重要な証拠となるため、これが存在する可能性が高い点は有利といえます。

また、特にタコグラフは、デジタルであれアナログであれ、運行状況が機械によって記録される資料です。つまり、タコグラフは、30分単位で出退勤時刻を記録した手書きの出勤簿などと比べると、残業時間がより客観的にわかる強い証拠といえます。単に証拠が存在する可能性が高いだけでなく、その証拠が有力である可能性が高い点も、トラック運転手ならではの“強み”といえるでしょう。

まとめ

このように、トラック運転手は残業代が未払いになっているケースも多く、また、証拠の面で他業種に比べて有利になりうる点もあることがご理解いただけたかと思います。こちらのページで紹介しているように、当事務所にご依頼いただいたことで、未払いになっていた多額の残業代を獲得できたトラック運転手の方も数多くいらっしゃいます。本コラムをお読みいただいているあなたの場合も、長時間の残業に対する残業代が、未払いのままになっているかもしれません。

「残業代を請求したいけど、どれくらいの額になるのかわからない…」、「残業代を請求する場合、これって証拠として使える?」といったお悩みをお持ちの方は、ぜひアディーレ法律事務所までご相談ください。

  • 現在アディーレでは、残業代請求を含む労働トラブルと、退職代行のみご相談・ご依頼をお引き受けしております。 残業代請求と退職代行に関するご相談は何度でも無料ですので、お気軽にお問合せください。

監修者情報

山内 涼太
弁護士

山内 涼太

やまうち りょうた
資格
弁護士
所属
東京弁護士会
出身大学
東京大学法学部、東京大学法科大学院

裁判に関するニュースに寄せられた、SNS上のコメントなどを見るにつけ、法律家が法的な思考をもとに下した判断と、多くの社会一般の方々が抱く考えとのギャップを痛感させられます。残念でならないのは、このようなギャップを「一般人の無知」と一笑に付すだけで、根本的な啓発もなく放置したり、それを利用していたずらに危機感を煽ったりするだけの法律家が未だにいることです。法の専門家として、専門知を独占するのではなく、広く一般の方々が気軽に相談し、納得して、法的解決手段を手に取ることができるよう、全力でサポートいたします。

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