退職代行サービスとは?
退職代行とは、弁護士などの専門家が仕事を辞めたいと思っている方の代わりに、職場に退職の申入れを行い、「円満退社」できるように退職に関する手続を行ってくれるサービスです。
退職代行サービスでみられる主なトラブル
しかし、円満退社するために利用したこの退職代行サービスで、逆にトラブルが起きることもあります。
退職代行サービスでみられる主なトラブルについて紹介します。
非弁行為を行う違法業者に依頼してしまう
報酬を得る目的で、弁護士しかできない業務を、弁護士でない者が行うことを「非弁行為」といいます。
この非弁行為は違法です(弁護士法第72条)。
たとえば、退職にあたり、次のような行為を弁護士ではない退職代行業者が行うことは違法の可能性が高いです。
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未払い残業代の請求
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退職条件に関する交渉
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有給消化(退職日)や退職金の支払いなどについての交渉
弁護士資格を持たない退職代行業者がこのような非弁行為をした場合は、2年以下の懲役または300万円以下の罰金刑が適用されます(弁護士法第77条3号)。
業者が非弁行為をしている場合、会社側が当該業者を対話の相手として認めず、当該業者に頼んでも退職手続が止まってしまうことがあり、業者と依頼者の方との間でトラブルになる可能性があります。
なお、会社側が非弁行為をしている業者相手の交渉を拒んだとしても、法律上も会社側の方が正当です。そのため、結局は弁護士に依頼し直すか、ご自身で対応しなくてはいけなくなります。
勤務先が、弁護士でないことを理由に相手にしてくれない
弁護士資格を持たない業者が、依頼人からの「退職の意思を会社側に伝えるだけ」であれば合法です。
つまり、「交渉」まではできないが、依頼人と会社の意向をそれぞれに伝えることは可能ということです。
しかし、会社側からしてみれば、どこからが合法で、どこからは違法かの判断が難しく、弁護士でないという理由で一切の対話を断られてしまうケースもあります。
交渉が必要になると、対応してもらえなくなる
弁護士でない退職代行サービス業者は、交渉ができず、退職の意思を伝言することしかできません。
そのため、退職の条件や時期などの交渉が必要な事態になってしまうと、弁護士でない退職代行サービス業者は対応することができません。
そのため、結局、依頼者自身が会社と直接交渉するか、別途弁護士に依頼するか、といった対応が必要となる場合があります。
損害賠償を請求されても交渉してもらえない
まれに、退職したいと伝えると、「引き継ぎなしで退職した、人手が足りなくなって損害が出た」などの理由で、会社から損害賠償を請求されることがあります。
損害賠償請求に根拠がないことも多いですが、弁護士でない退職代行サービス業者の場合は、会社の主張に対して反論・交渉はできません。
また、弁護士でない業者のなかには、業者自体が正確な法律知識を持っていないケースもあります。このような業者に依頼した場合、間違ったアドバイスのせいでかえって事態が混乱し、依頼者との間でトラブルに発展することもあります。
予想以上の金額を請求される
価格の安さでサービスの利用者を募っている代行サービス業者には注意が必要です。
追加費用を請求されたり、サービスの質が悪かったりすることがあります。
退職代行サービスでトラブルを避けるには弁護士に相談する
以上のように、弁護士でない退職代行業者はできることが限られています。
退職したいと伝えて、会社側が希望をすべて了承してくれるのであれば問題はありませんが、退職にあたっては退職時期やそれまでの残業代の請求など、ほかにも解決すべきことがあり、交渉が必要になることが多いです。
途中で改めて弁護士に依頼するくらいなら、最初から交渉や訴訟の代理なども行える弁護士に退職代行を相談したほうがスムーズではないでしょうか。
そこで、次は弁護士による退職代行サービスの選び方をご説明します。
退職代行サービスをする弁護士の選び方
退職代行サービスをする弁護士の選び方のポイントは以下の3点です。
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料金
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サービス範囲、交渉可能な範囲
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ノウハウの豊富さ
これらについてご説明します。
料金
依頼料金が極端に安い場合は注意しましょう。
あまりにも安い価格設定の場合はサービスの質が悪い可能性があります。
たとえば、少ない人手で大量の案件を回しているがゆえに、「会社への退職連絡が遅い」、「進捗状況の報告をしてくれない」といったようなトラブルが起こる可能性があります。
サービス範囲、交渉可能な範囲
弁護士の退職代行とはいっても、弁護士によって、サービス範囲は異なります。
たとえば、弁護士の退職代行サービスで扱われる内容としては主に次のようなものがあります。
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退職そのものの対応(退職の申し出、退職日の調整など)
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退職金の支払いの対応
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有給休暇の消化に関する対応
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未払いの賃金・残業代についての対応
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会社から損害賠償請求された場合の対応
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パワハラなどその他のトラブル対応
弁護士によって、こういった内容の退職代行サービスをすべて扱うのか、一部だけ扱うのかは異なってきます。
たとえば、残業代の請求については、退職代行サービスとは別の委任契約・費用が必要という場合もあります。
退職代行の委任契約を使用とする場合には、具体的にどの行為が退職サービスの対象となるのかきちんと確認して、自分に適したサービス内容の弁護士と委任契約をするとよいでしょう。
ノウハウの豊富さ
退職代行のノウハウが豊富な弁護士を選ぶと安心です。
弁護士が退職したいと言えば、素直に応じてくれる会社であればよいのですが、「親切にしてやったのに退職するなんてありえない。損害賠償請求する」などと言ってくるような会社の場合には、ノウハウが豊富な弁護士に頼んだ方が、スムーズに手続が進みます。
また、退職の申し出のほかに残業代請求などその他のトラブルも依頼する場合は、ノウハウが豊富な弁護士に頼んだ方が、獲得できる利益も増える可能性があります。
ホームページなどで実績などを紹介している事務所も多いので、参考になさってください。
退職代行を依頼するために準備しておきたいこと、ご相談までの流れ
次に、退職代行を相談するまでの流れ、準備したいことをご説明します。
退職代行サービスに相談する前に準備すべきこと
退職代行サービスに相談する前にできれば準備しておきたいことを説明します。もちろん、準備する前でも弁護士への相談は可能です。
有給休暇の残日数を確認
有給休暇を消化してからの退職を希望する場合は、有給休暇の残日数をあらかじめ確認しておきましょう。
給与明細に従業員の有給残日数が記載されているケースもあり、何日残っているのかを知ることで「退職日」のめどを把握することができます。
給与明細に記載されていない場合は、会社の人事課などに有給休暇の残日数を確認することもできます。
そもそも、有給の取得は労働者の権利です。残っている有給があれば弁護士が交渉することにより、有給消化のあとに退職できる可能性を高められます。
就業規則を確認
就業規則には退職をするときの手続方法や会社で決められたルールが記載されています。
たとえば、「退職する場合は1ヵ月以上前に退職願を提出すること」などと記載されていることもあります。
急ぐ事情がなければ、就業規則の手続に則って退職したほうが円満退職しやすくなります。
もちろん就業規則に定められている日よりももっと早く退職したいということもあるでしょう。
議論もあるところですが、就業規則の定めにかかわらず、正社員(労働契約につき期限の定めない場合)は、2週間前に退職申し出をすれば退職可能です(民法第627条1項後段)。
また、会社の合意が得られれば、即日退職することも可能です。
なお、退職可能日は、契約によっても異なります。
最短の退職可能日をきちんと知りたい場合には、弁護士に相談されることをおすすめします。
退職代行サービスに依頼するときに伝えること
次に、退職代行サービスを依頼するときには、たとえば次のことを伝えます。
とはいっても、基本的に弁護士の方から質問してくれますので、ご安心ください。
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退職希望日
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退職理由
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会社名
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会社の連絡先(電話番号、FAX番号、住所、人事担当者の名前など)
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雇用形態(期間の定めのない契約か、有期雇用契約か、正社員かなど)
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会社からの貸与物の有無
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職場に置いている私物の処理方法の希望(郵送で返却、廃棄など)
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退職届はすでに提出しているか(退職交渉の状況)
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有給消化後の退職を希望するか⇒希望する場合は、有給消化の残りの日数
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未払いの残業代請求の希望はあるか
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業務の引き継ぎ事項
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現在、寮や社宅に住んでいないか
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在職中に会社の名誉を棄損するなど非違行為をしていないか
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弁護士の介入を希望する日
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その他希望することなど
有給をほとんどとっていないので残っているはずなのですが、給与明細に書いてないので何日残っているのか分かりません。その場合は有給を取ってから辞めることはできないですか?
仮に、自分では有給の残日数がわからないといった場合でも問題はありません。
有給の日数は法律で決まっていますし、会社の就業規則にも規定されています。これまでの勤続年数と有給を取得した日数から残りの日数を計算することができますので、有給の残りの日数がわからなくても、まずは弁護士にご相談ください。
退職したあとに必要な手続
次に、退職したあと、すぐに転職しない場合は、次のような手続が必要です。
失業保険の受給手続
雇用保険に加入している方は、失業中に失業保険(基本手当)を受給できる場合があります。
原則として退職の翌日から1年経つと、所定給付日数が残っていても基本手当を受給できなくなります。基本手当の受給を希望する場合は、失業後すぐに退職者の住所地を管轄するハローワークで手続をしましょう。
失業保険の受給については以下のページもご覧ください。
健康保険の切り替え
退職日の翌日から健康保険は失効します。
そのため、以下のような対応が必要です。
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在職中に健康保険を任意継続する
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配偶者の扶養に入る
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国民健康保険に切り替える
健康保険の切り替えについては以下のページもご覧ください。
年金の切り替え
在職中に第2号被保険者(厚生年金や共済組合等に加入している方)であった場合、退職して失業すると第2号被保険者の資格を喪失します。
この場合、60歳未満の方は以下のいずれかに切り替える必要があります。
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第1号被保険者(無職や自営)
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第3号被保険者(配偶者の扶養に入る)
退職時期に応じて確定申告
年の途中で退職した場合や、年末までに再就職しなかった場合は、退職した会社で得たその年の給与が年末調整されないままになっていて、税金を支払いすぎたり、不足していたりする可能性があります。
そのため、確定申告が必要となります。支払いすぎた税金が返ってくる可能性がありますので、忘れずに申告しましょう。
【まとめ】弁護士資格を持たない退職代行サービス業者は、勤務先との「交渉」はできない
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
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弁護士でない退職代行サービス業者に依頼した場合、起こり得るトラブルは主に次のとおりです。
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非弁行為(弁護士しか行えない業務を弁護士以外の者が行う違法な行為のこと)を行う業者に依頼してしまう
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勤務先が、弁護士でないことを理由に取り合ってくれない
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勤務先と交渉が必要になると、対応してもらえない
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勤務先から損害賠償請求をされても対応してもらえない
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予想外の料金を請求される
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退職したい方の代理人となって、勤務先と「交渉」が出来るのは弁護士のみ。交渉が必要になった場合には、改めて弁護士に依頼するか、自分で対応しなければならないため、最初から弁護士に依頼したほうがスムーズ。
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弁護士に退職代行を依頼する場合、あらかじめ、料金・交渉可能な範囲・ノウハウの有無などを確認すべき。
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退職にあたっては、有給の有無、退職可能時期を調べる。有給が残っている場合、弁護士に依頼すると、弁護士の交渉により、有給を消化してから退職できる可能性がある。
退職代行サービスは昨今、話題のサービスですが、トラブルも発生しています。
弁護士であれば、退職時期の交渉はもちろん、有給消化、未払い残業代などの交渉も可能です。
また、万が一会社から損害賠償請求された場合であっても、弁護士であれば対応ができます。
アディーレ法律事務所では退職代行に関する相談料は何度でも無料です。
「退職できなくて困っている…」という方は、ぜひ一度ご相談ください。
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※現在アディーレでは、残業代請求を含む労働トラブルと、退職代行のみご相談・ご依頼をお引き受けしております。 残業代請求と退職代行に関するご相談は何度でも無料ですので、お気軽にお問合せください。
監修者情報
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資格
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弁護士
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所属
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東京弁護士会
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出身大学
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中央大学法学部
弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。