サービス残業を労基へ通報したい!手順や会社にバレない証拠の集め方を弁護士が解説
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毎日遅くまで働いているのに、残業代が支払われない。「能力不足だから」「みんなやっているから」と言いくるめられ、泣き寝入りしていませんか?会社とのトラブルや報復をおそれて、誰にも相談できずに一人で抱え込んでいる方も多いでしょう。
そこで、このコラムでは、サービス残業の違法性や労働基準監督署(労基署)への具体的な通報手順、会社にバレずに証拠を集める方法について詳しく解説します。
正しい知識を身につけることが、不当な労働環境から抜け出し、正当な対価を取り戻すための第一歩になりますので、ぜひ参考にしてください。
- 今回の記事でわかること
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- サービス残業の違法性と判断基準
- 労働基準監督署への通報・申告の流れ
- 未払い残業代を請求するための有効な証拠と手続
- 目次
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- サービス残業の違法性
- 労働基準法が定める法定労働時間
- 能力不足を理由とした残業代不払いは違法
- 残業代が支払われるべき「自主的な残業」のケース
- 労働基準監督署(労基署)に通報・申告するには
- 電話で通報する
- メールで通報する
- 労基署を直接訪問し窓口で通報・申告する
- 通報後に実施される立ち入り調査の流れ
- 労基署への通報・申告が会社にバレることはある?
- 労基署に通報・申告して不利益な取扱いを受けたらどうする?
- 労働基準法第104条による不利益な取扱いの禁止
- 会社からの「報復人事」に対して無効を主張する
- サービス残業を労基署に通報・申告する前に準備すべきこと
- 労働時間を証明できる客観的な資料
- パソコンのログやメールの送信履歴
- 手書きのメモ(パソコンがない場合)
- 未払い残業代の請求方法と注意点
- 任意交渉
- 労働審判
- 民事訴訟
- 【注意】残業代請求には時効がある
- 残業代請求は弁護士に相談するのがおすすめ
- まとめ
サービス残業の違法性
「サービス残業」とは、会社が従業員に対して賃金(残業代など)を支払わずに残業をさせる行為のことです。会社には労働の対価として賃金を支払う義務があり、対価なしで労働者を働かせることは違法な行為です。
このような違法な状態を改善するためには、まず、法律で定められた労働時間のルールについて正しく知ることが大切です。また、会社側の言い訳としてよくある「能力不足」や「自主的な残業」の扱いについても詳しく見ていきましょう。
労働基準法が定める法定労働時間
労働基準法では、労働時間の上限が明確に決められています。原則として、1日8時間、週40時間を超えて働かせてはいけません。これを「法定労働時間」と呼びます。
もし、この時間を超えて従業員を働かせる場合には、会社は従業員と「36協定」という労使協定を結んで労働基準監督署に届け出る必要があります。さらに、法定労働時間を超えて働いた時間については、通常の賃金に25%以上を上乗せした「割増賃金(残業代)」を支払わなければなりません。
このルールは強行法規といって、会社と従業員の間で「残業代はいらない」という合意があったとしても無効になるほど強い効力を持っています。
■法定労働時間(原則)
■36協定(サブロク協定)の締結・届出
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法定労働時間を超えて働かせる場合に必要となる労使協定
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労働基準監督署への届け出が必須
■割増賃金(残業代)の支払い
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法定労働時間を超えた場合、通常の賃金に25%以上を上乗せして支払う義務がある
■強行法規としての効力
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このルールは当事者間の合意により排除できない
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たとえ従業員が「残業代はいらない」と同意していても、その合意は無効となる
能力不足を理由とした残業代不払いは違法
「仕事が遅いから終わらないんだ」「能力不足だから残業代は出さない」と言われ、サービス残業を強いられるケースは少なくありません。
しかし、作業効率にかかわらず、業務を行った時間はすべて労働時間とみなされますし、会社の指揮命令の下で働いている以上、能力不足を理由に残業代を支払わないことは法律上許されないのです。
したがって、会社が残業を禁止し、定時で帰るように明確に指示していたにもかかわらず勝手に残業したような場合を除き、業務が終わらず残業せざるを得ない状況においては、残業代を支払う義務が会社に発生します。
残業代が支払われるべき「自主的な残業」のケース
会社から「自主的に残業している」と見なされていても、実態として業務を行っていれば残業代の支払義務が生じるケースは多くあります。
たとえば、明らかに定時内では終わらない量の業務を与えられている場合や、上司が残業を知りながら黙認している場合などは、「黙示の指示」があったと判断されやすいです。
また、会社側が「残業許可制」をとっていたとしても、事実上残業を強制していたりする実態があれば、それは会社の指揮命令下にある労働時間として扱われます。
労働基準監督署(労基署)に通報・申告するには
サービス残業を強いられている状況を改善するためには、労働基準監督署(労基署)という公的機関の力を借りるのが一つの有効な手段です。労基署は、会社が労働に関する法律を守っているかを監督する、いわば「労働警察」のような役割を持っています。
<労基署に通報・申告する方法>
- 電話で通報する
- メールで通報する
- 労基署を直接訪問し窓口で通報・申告する
ただし、労基署に動いてもらうためには、「相談」や「通報」を行うだけでなく、具体的な事実を伝えて違反を「申告」する必要があります。
電話で通報する
労基署に電話をかけて通報する方法です。簡易に行えますが、具体的な状況を伝えるのが難しい場合があります。
専門知識を持つ相談員が対応してくれますが、会社に是正・改善などを促すことはなく、あくまで相談できるだけにとどまります。
メールで通報する
メール(労働基準関係情報メール窓口)を使用して通報することも可能です。ただし、メールによる通報は、厚生労働省のサイトにメール送信するものであり、個々の労基署にメールが届くわけではないため、管轄の労働基準監督署が動くまでに時間がかかります。
また、あくまで情報を提供するにとどまり、労働問題についてアドバイスを受けることもできません。
労基署を直接訪問し窓口で通報・申告する
会社の管轄区域にある労基の窓口に直接出向き、法違反の事実を申告する方法です。これが確実で、調査につながりやすい方法といえます。相談員や監督官と対面で話ができるため、複雑な事情や詳細な経緯を正確に伝えることができます。この際、会社に対して是正勧告(指導)を行ってほしいという意思を明確に示すことが重要です。正式な「法違反の申告」として受理されれば、労基署は調査を行う必要が出てきます。口頭での説明だけでなく、証拠となる資料を持参すると、よりスムーズに話が進みます。
通報後に実施される立ち入り調査の流れ
労基署に違法事実を通報した場合、以下のような流れで行政介入が行われます。
- 相談・申告
労働者が窓口やメールで違法事実を伝える。調査の端緒(きっかけ)となる。
- 調査(臨検)
違法事実の客観的な把握を行うため、監督官が会社へ立ち入り、帳簿や現場を確認する。
- 指導・是正勧告
会社への公式な警告と自浄作用の促進のため、違反事項の指摘と改善命令の書面が交付される。
- 是正報告
会社が改善内容を報告する。
- 強制捜査
悪質な未是正事案に対して司法警察権を行使(逮捕、送検を含む刑事責任の追及)する。
通報によって法違反の疑いが高まると、まず、労働基準監督官が経営者や担当者へのヒアリングを行います。立ち入り調査(臨検)を行います。調査官は予告なしに、あるいは事前に連絡をしたうえで会社を訪問し、タイムカードや賃金台帳、就業規則などの帳簿類を確認します。
ここで法律違反が確認されると、会社に対して「是正勧告書」が交付されます。会社は指定された期限までに違反内容を改善し、その結果を労基署に報告しなければなりません。
労基署への通報・申告が会社にバレることはある?
労基署に通報・申告したいけれど、「会社にバレたら居づらくなる」「報復が怖い」と躊躇する方はとても多いです。
労基署が会社に通報者の名前を言うことはない
労基署の労働基準監督官には守秘義務(労働基準法105条)があるため、通報者の名前や通報内容が会社に知らせることはありません。
匿名で情報提供を行えば基本的にバレることはない
下記の電話やメールを利用する際に、匿名で情報提供をすることができます。
匿名で通報するメリットは、会社に自分の身元を知られるリスクを減らせることです。労基署に対して「名前を伏せて調査してほしい」と要望すれば配慮してくれます。
ただし、匿名での通報は情報の信憑性が低いと判断されやすく、労基署が強力な調査権限を行使しにくくなるというデメリットがあります。
労基署に通報・申告して不利益な取扱いを受けたらどうする?
労働基準法第104条による不利益な取扱いの禁止
労働基準法第104条では、会社が労働基準法に違反している事実を労基署に通報・申告したことを理由として、その労働者に対して解雇などの不利益な取扱いをすることを明確に禁止しています。
会社からの「報復人事」に対して無効を主張する
労基署に通報後、会社から、労基署に通報・申告したことへの報復と思われる人事が行われた場合は、泣き寝入りせずに不利益な取扱いの無効を主張しましょう。
- 降格・減給
- 不必要な配置転換
- 解雇・嫌がらせ など
会社側に無効を主張しても処分を撤回してもらえないようなら、労基署に再度通報・申告するのも一案です。
ただし、労基署ができるのはあくまでも指導までにとどまり、強制力はありません。
労基署が対応しても状況が変わらない場合には、労働問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。
サービス残業を労基署に通報・申告する前に準備すべきこと
労基署に動いてもらうためには、「実際に残業していた」という事実を証明する証拠が不可欠です。会社側が「そんなに残業はしていない」「記録がない」と言い張った場合、客観的な証拠なしで反論するのは難しいからです。
また、証拠は一つだけでなく、複数を組み合わせることで信用性が高まります。今は手元になくても、これから集めればよいので、焦らずに準備していきましょう。
証拠として有効な資料としては、下記のようなものが挙げられます。
- 労働時間を証明できる客観的な資料
- パソコンのログやメールの送信履歴
- 手書きのメモ(パソコンがない場合)
下記で詳しく見ていきます。
労働時間を証明できる客観的な資料
基本となる証拠は、タイムカードや勤怠管理システムの記録です。手元にある場合にはご準備ください。
ただし、サービス残業が常態化している会社では、定時で打刻させてから仕事をさせているケースも多いでしょう。そのような場合は、別途、実際の始業・終業時刻がわかる客観的な資料を集める必要があります。
<実際の始業・終業時刻がわかる客観的な資料>
- 交通系ICカードの乗車履歴
- 会社の建物の入退館記録
- 社用携帯の通話履歴
- 防犯カメラの映像 など
上記のように、第三者が管理しているデータや機械的な記録であれば、客観性が高く、改ざんされていない有力な証拠として扱われる可能性が高いです。
パソコンのログやメールの送信履歴
デスクワークが中心の場合、パソコンの操作ログは非常に強力な証拠になります。特に、パソコンを起動した時刻(ログイン)とシャットダウンした時刻(ログアウト)の記録は、その間会社にいて仕事をしていたことの強い推認材料となります。
また、業務上のメールを送信した履歴も有効です。送信日時は自動的に記録され、後から変更することが難しいため、少なくともその時刻には業務を行っていたことの証明になります。自分のパソコンから自分個人のメールアドレス宛に、業務終了報告のような形でメールを送っておくことも、証拠を確保する手段として有効です。
手書きのメモ(パソコンがない場合)
パソコンがない、あるいは記録をごまかされているという場合でも、諦める必要はありません。手書きのメモや日記も、詳細に書かれていれば証拠として認められることがあります。毎日の出勤・退勤時刻を分単位で正確に記録し、その日に行った業務内容や指示されたことなどを具体的に書き残しておきましょう。重要なのは、あとからまとめて書くのではなく、毎日継続してつけておくことです。整合性が取れており具体的であれば、裁判所でも有力な証拠として認められ、残業の事実を裏付ける決め手になることがあります。
未払い残業代の請求方法と注意点
証拠がある程度集まった段階で、未払い残業代を取り戻すための行動に移ります。
具体的には下記のフローで会社に対して残業代請求を行っていきます。
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1. 任意交渉(示談)
↓ 解決しない場合
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2. 労働審判
↓ 解決しない場合
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3. 民事訴訟
いきなり裁判を起こすことはあまりなく、通常は話合いによる任意交渉から始め、解決しない場合には上記のフローに従って請求手続を進めていきます。
任意交渉
まず会社と任意交渉を行います。「内容証明郵便」(いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったかを郵便局が証明してくれるサービス)を利用して、未払い残業代についてのこちらの要求内容を伝えます。その後、会社と交渉を進め、解決を目指します。
労働審判
会社との直接交渉で話がまとまらない場合は、裁判所の手続である「「労働審判」を利用します。これは裁判官と労働問題の専門家が間に入り、原則として3回以内の期日で調停(話合いによる解決)を目指す手続です。通常の裁判よりも早く、費用も安く済むのが特徴です。
民事訴訟
労働審判でも解決しない場合には、「訴訟(裁判)」を提起します。裁判では、お互いが証拠を出し合って主張を戦わせ、最終的に裁判所が判決を下します。時間はかかりますが、強制力のある解決を図ることができます。
【注意】残業代請求には時効がある
残業代請求の消滅時効は3年です。最大で3年間分をさかのぼって残業代を請求できますが、3年以上前に発生した未払い残業代は消滅してしまいます。
残業代を請求したいと思ったら、速やかに行動を起こすことが大切です。
残業代請求は弁護士に相談するのがおすすめ
残業代請求に関する相談は、労基署でも可能です。
ただ、労基署は相談に乗ってはくれるものの、労働者個人の代理人として会社に残業代請求をしてくれるわけではありません。
また、残業代請求は、正確な残業時間の計算や証拠の整理、会社との交渉など、専門的な知識と多くの労力を必要とします。弁護士に依頼することで、これらの複雑な手続をすべて任せることができます。法律のプロが代理人となることで、会社側の対応が真剣なものに変わるケースも少なくありません。
まとめ
サービス残業は決して許されることではなく、会社には働いた分の賃金を支払う義務があります。
「自分さえ我慢すれば」と思わず、まずは労働基準監督署への相談や、日々の証拠集めから始めてみましょう。正しい手順を踏めば、会社にバレるリスクを抑えつつ、未払い残業代を取り戻せる可能性があります。
ただし、労基署はあくまでも会社に指導や勧告をするにとどまり、強制力はありません。労働者の方の希望どおりに労働環境が改善した、未払い残業代が支払われた、という結果が得られないこともあるでしょう。労基署に通報したけれど、状況に改善が見られないという方は、弁護士への相談・依頼もご検討ください。
アディーレ法律事務所では、残業代請求に関するご相談は何度でも無料です。サービス残業でお困りなら、ぜひ一度ご連絡ください。
監修者情報
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資格
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弁護士、応用情報技術者、基本情報技術者
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所属
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東京弁護士会
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出身大学
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東京大学法学部、東京大学法科大学院
裁判に関するニュースに寄せられた、SNS上のコメントなどを見るにつけ、法律家が法的な思考をもとに下した判断と、多くの社会一般の方々が抱く考えとのギャップを痛感させられます。残念でならないのは、このようなギャップを「一般人の無知」と一笑に付すだけで、根本的な啓発もなく放置したり、それを利用していたずらに危機感を煽ったりするだけの法律家が未だにいることです。法の専門家として、専門知を独占するのではなく、広く一般の方々が気軽に相談し、納得して、法的解決手段を手に取ることができるよう、全力でサポートいたします。