その残業手当は、本当に大丈夫ですか?
~割増賃金は正しく請求しましょう~
例えば、下記のケースを考えてみましょう。
あなたは仕事が忙しくなり、休日もなく、深夜まで残業する日もしばしば。毎月定額の残業手当が支払われているので、これ以上の請求はできないだろうと諦めています。
この場合、本当に残業代の追加請求はできないのでしょうか?
諦めるのは、まだ早いです。この場合、残業手当を超えた残業代が発生している可能性があります。ですので、法律の定める計算方法で算出して、残業手当では足りない分を、会社に請求することができます!
1.残業代が発生する仕組み
まずは、残業代が発生する仕組みから考えていきたいと思います。
残業代は、定められた勤務時間(所定労働時間)を超える労働を行ったときに発生します。定められた勤務時間とは、会社との契約で決められるものです。
例えば、9時から18時まで(休憩時間は1時間)勤務することが労働契約の内容として定められている人が、8時から19時まで仕事をしたとすると、2時間分の残業代が発生していることになります。
ところが、残業代とは、これだけで終わりではないのです。どのようなことかといいますと、労働基準法では、労働時間は1日8時間まで、1週間で40時間までと定められていて、この定めに違反して残業させた場合は、所定の割増賃金を支払わなければならないとされているのです。
そうすると、先ほどの例では1日10時間労働しているわけですから、会社は残業代として、通常の賃金より割増された賃金を支払わなければならないのです。実際に、どのくらいに割増されるのかという点については、後ほど詳しく説明したいと思います。
2.残業代の請求と残業代手当
残業手当とは、法的にどのような意味をもつのでしょうか。
営業職のように、外回りをして会社に戻ってから事務作業をするなど、残業(時間外労働)をすることがある程度想定される職種においては、「残業手当」や「営業手当」等、名目の違いこそあれ、残業代に代わる固定制の手当が設けられていることがあります。
この手当は、残業代の代わりに支払われるものです。ですから、残業代の代わりに支払われる手当は、法的にみれば、その限度で残業代の支払がなされたことになるという意味を持っています。
実際に発生した残業代の額にかかわらず、必ず会社が支払うものと思っていただくと分かりやすいかもしれません。そして、実際の残業代が手当の金額を上回る場合には、会社はその差額分を労働者に対して支払う義務があります。このように、会社からみれば、労働者の残業時間にかかわらず必ず支払わなければならない最低金額が、残業手当ということになります。
もっとも、残業手当を設けることは、会社にとって、個人間で差のある残業代に関する計算の手間を省略できるとともに、残業代計算の基本となる給与を引き下げることができるというメリットがあります。残業代の具体的な計算方法については、次の項目で詳しく述べますが、残業手当は、あくまで残業代に充てるため支払われるものですので、基本給とは異なり、残業代計算の基本とは、ならないのです。
3.残業代の計算方法
では、残業代がいくら発生しているのかについては、どのように計算すればよいのでしょうか。基本的な考え方としては、時給に換算し、時間数と割増率を掛けていくという方法になります。
割増率とは
法律で定められた時間を超える労働をした場合、その分だけ通常の賃金より割増した賃金を支払わなければなりません。これが、「割増率」です。法律で定められた時間を超える場合のほか、深夜に労働した場合や休日に労働した場合にも、割増賃金を支払わなければなりません。具体的な割増率は、次のようになっています。
種類 | 割増率 |
---|---|
時間外労働 | 25%以上 |
休日労働 | 35%以上 |
深夜労働 | 25%以上 |
時間外・深夜労働 | 50%以上(25%+25%) |
休日・深夜労働 | 60%以上(35%+25%) |
- 休日は、もともと労働時間の概念がないので、時間外労働とは併存しません。
例えば、月給が20万円で、一ヶ月平均所定労働時間(年間の所定総労働時間÷12で計算されるもの)が160時間であるとすると、時給1250円ということになります。仮に、その月に全部で200時間働いたとすると、時間外の労働時間は40時間ということになりますから、1250円×40時間×1.25=62,500円をその月の残業代として請求することができます。ただし、残業手当の支給がある場合には、残業手当を除いた額で残業代を計算する必要があります。ですので、今回のケースにおいて残業手当として毎月5万円が支払われている場合には、実際に請求できる残業代金額は、62,500円から5万円を引いた12,500円となります。
1日あたり2時間の残業でも1ヵ月間でおおよそこのくらいの請求ができ、それが1年分ともなれば15万円にもなります。今回のケースでは、深夜まで残業することもあり、休日にまで出勤していたとのことですから、1日2時間の残業時間では収まらないと思いますし、深夜、休日割増手当による金額の増加もあるでしょうから、実際に請求することができる金額は、1年間分で100万円は下らないのではないかと考えられます。
4.残業代の請求方法
では、その金額を実際に請求していくためには、どのような手続をとればよいのでしょうか。まずは、会社に内容証明郵便を送付するなどして、任意で交渉することが考えられます。ここで会社側が支払ってくれると話が早いのですが、金額も安くはないため、すぐに首を縦に振る会社は多くはないようです。
次に、任意に支払ってもらえないとなると、「労働審判」という手続を裁判所へ申し立てることになります。厳密にいうと、ほかにも法的な手段はあるのですが、当事務所では、労働問題についてスピーディーかつ簡単な手続での解決が期待できることから、労働審判をおすすめしています。
労働審判では、しばしば、残業したことの証明が難しいことがあります。サービス残業は、まさにその典型例です。もし万が一、労働審判でも話がつかず、審判の結果に納得がいかない場合には、訴訟へ移行することになります。ただし、訴訟に移行すると、時間がかかる手続ですので、長い場合で1年を超えることもあります。しかも、ほとんどのケースでは、訴訟での結論は労働審判での結論と変わることはありません。
5.今回のケースでは
今回のケースでは、実際に請求できる残業代を計算した上で、会社に対して残業代を請求していくことになるでしょう。
新聞やニュースで報道されていますとおり、請求できないと思っていたのに、いざ計算してみたところ、多額の残業代が発生していたというケースは、皆さんが思っている以上に多いようです。
6.1日8時間または週に40時間を超えて働いていたら、弁護士に相談を!
残業手当や営業手当など名目上の諸手当に、働いた分の残業代がきちんと含まれているのかは計算してみなければ分かりません。そのような場合には、法律と交渉の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。きっと相談するだけでも気持ちが軽くなりますし、残業代の具体的な計算や請求についてのアドバイスもしてもらえるでしょう。1日8時間または週に40時間を超えて働いている方でしたら、ぜひ、弁護士に相談してください。本当の意味での適切な残業代を請求することができます。