その行為にレッドカード!それはパワハラです!!
~悔し涙では終わらせない~
例えば、下記のケースを考えてみましょう。
新しく配属された部署で、上司とあなたはどこか馬が合いません。そんなあなたに嫌気がさしたのか、上司は「あいつは仕事ができない」「顔も見たくない」など周りの社員に悪口を言いふらす始末。あなたは、とうとう体調を崩してしまいました。
この場合、パワハラになるのでしょうか?また、対処法はないのでしょうか?
このケースは、典型的なパワハラ(パワーハラスメント)であるといえます。このままでは、いまの職場であなたが実力を発揮することはできませんし、何より体調が心配です。早急に対応策を講じる必要があります。
1.パワハラとは
パワハラとは、「パワーハラスメント」の略語であり、近年登場した和製英語です。パワハラ(パワーハラスメント)とは、法律上、①優越的な関係を背景とした言動があること、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、③労働者の就業環境が害されるものであり、①~③までの3つの要素をすべて満たすものと定義しています。
会社においては、業務を円滑に行うため、管理職には各種の権限が与えられています。そして、ときには必要に応じて部下らに対して指導を行うことが認められ、また会社から求められてもいます。そこで、パワハラと業務指導の境目が難しい問題となるのです。
例えば、仕事の予定をすっぽかしてしまった部下に対して、上司が「何をやっているんだ!」と怒鳴った場合、適切な行為とはいえませんが、それだけでパワハラということはできません。なぜなら、業務上の指導の範囲内での叱責は、認められているからです。
しかし、指導の範囲内を超えて、例えば「お前とはもう仕事をしたくない。」、「もう家にでも帰って寝てろ。」等の言葉を使い、それが日常的に繰り返される場合はパワハラ行為となります。
つまり、叱責のみであれば業務指導の範囲内となり正当な業務行為となりますが、その叱責に嫌がらせの意図が含まれている場合には、パワハラにあたるのです。
パワハラか否かを判断する際に重要となるのは、上司等の行為が、「本来の業務を超えて」「継続的に」弱い立場の者に対して行われ、「働く環境を悪化」させたり、受け手に「雇用不安」をもたらすものかどうかという点です。この点からすると、過度な業務の遂行を部下に命じ、達成できなかった場合に叱責することは、パワハラとされる可能性が高いといえます。
2.今回のケースでは
今回のケースでは、あなたの上司の行為は業務上の指導の範囲内とは到底いえず、パワハラにあたります。あなたがパワハラを受けていることは明らかなのですから、それを我慢することは、自分にとっても、会社にとってもよくありません。このまま放置しておけば、職場環境はますます悪化し、会社全体の利益を下げることにもなりかねません。
では、あなたは誰に、どのようなことを請求できるのでしょうか。まず、実際にパワハラを行っていた上司にパワハラを止めさせることが先決です。そのうえで、パワハラに対する慰謝料はもちろん、病院等に通っていた場合には、その治療費などを請求することができます。
また、会社には、労働者にとって快適で働きやすい職場環境をつくる義務があります。2008年に施行された労働契約法では、安全配慮義務が明文化されました(労働契約法5条)。さらに、改正労働施策総合推進法(2020年6月1日施行)により、会社にパワハラ防止のための雇用管理上の措置が義務づけられ(同法30条の2)、厚生労働省の告示(最終改正:2020年1月15日)により、事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して、雇用管理上講ずべき措置等についての指針が示されました(2022年4月1日からは、中小企業もかかるパワハラ防止のための措置をとることが法的義務となります)。
そのため、会社が職場でのいじめを放置していた場合、改正労働施策総合推進法が求める職場環境配慮義務違反が問われることになります。なお、会社が中小企業であり、かつ2022年4月1日以前のできごとであるからといって、何の責任も問われないということではありません。状況や場合によっては、安全配慮義務違反が問われることになります。
したがって、今回のケースではこうした義務違反を理由に、会社に対しても慰謝料を請求することができます。パワハラをした上司も会社と雇用関係にあるため、民法上の使用者責任(民法715条)を理由として、会社に対して慰謝料請求をすることもできます。
もっとも、パワハラを理由として、あなたが上司や会社に慰謝料等を請求していくにあたっては、難しい点があります。それは、「法律上許されないもの」としてパワハラが認められるかどうかという点です。上述したように、上司からの叱責がパワハラにあたるか否かについての判断は、微妙なところがあるのが実情です。それでも、パワハラにあたるかどうかについては、一般的な裁判所の基準があります。
裁判所の判断基準では、他人に対して、心理的な負荷を過度に蓄積させる行為は、原則として違法であり、パワハラにあたるとされています。しかし、それが合理的な理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で行われた場合には、正当な職務行為としてパワハラにはあたらないとしているのです。
以上より、暴力が伴うものは、先ほどの基準に照らし、基本的には法律上許されず、パワハラにあたると考えられます。また、暴力が伴わなくとも、ほかの従業員がいる前で繰り返し「バカ」と罵倒するなどの行為は、本来の業務範囲を超え、継続的かつ執拗に人格を傷つけるため、法律上許されないといえます。
3.パワハラで悩んでいるのでしたら、弁護士に相談を!
パワハラでお悩みの方は、すぐに法律と交渉の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
誰かに相談するだけでも気持ちが軽くなりますし、パワハラが認められれば、その行為を止めさせることで会社の職場環境を改善させることができます。さらに、慰謝料や治療費を請求することも可能です。
パワハラは、職場での上下関係を悪用し、相手を一方的に追い詰める悪質な行為です。しかし、その行為がパワハラにあたるかどうかは判断が難しく、当事者だけで解決することは困難です。安心して働ける職場を手に入れるためにも、ひとりで悩まず、弁護士にご相談ください。