労働トラブルコラム

退職勧奨されたら?退職勧奨が違法とされる場合と適切な対応を弁護士が解説

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「上司から仕事を辞めるように言われたけど従うしかないのかな?断ったら嫌がらせされそうで不安」

本コラムではそんなお悩みを解決します。
結論からいうと、退職勧奨に応じる法律上の義務はないため、あなたが辞めたくないのであれば辞める必要はありません。
しかし高圧的な態度で辞めるようすすめてきたり、脅されたりすると「従うしかないのかな?」と不安になりますよね。

今回は退職勧奨されて困っているあなたのために、退職勧奨が違法となる場合や、自分のされた退職勧奨は違法なのでは?と感じたときの対処法を紹介していきます。
ぜひ最後までご覧ください。

今回の記事でわかること
  • そもそも退職勧奨とは何か
  • 退職勧奨が違法とされた事例
  • 退職勧奨と解雇の違い
  • 退職勧奨された場合の対処法
目次
  1. 退職勧奨とは?
  2. 退職勧奨と解雇の違い
  3. 違法な退職勧奨
    1. 長時間・長期間にわたる執拗な退職勧奨
    2. 嫌がらせによる退職勧奨
    3. 侮辱的・屈辱的な言葉を伴う退職勧奨
  4. 退職勧奨されたら
    1. 退職する意思がない場合
    2. 退職勧奨を受け入れる場合
      1. 退職条件の確認
      2. 自己都合の退職か会社都合の退職かの確認
  5. 退職勧奨されたら弁護士に相談するべき?
  6. まとめ

退職勧奨とは?

退職勧奨とは、使用者が労働者の自主退職あるいは合意退職の申込や承諾を促すことをいいます。

あくまで、労働者の自由な意思による退職を促すものであるため、労働者が退職勧奨に応じる義務はありません。そのため退職するか否かの決断について、労働者の自由な意思形成を妨げることは許されません。

労働者は、使用者から雇われることによって、生活の糧を得ており、就労に生活の多くの時間を割くことが通常です。
そのため、退職するか否かの判断は、労働者にとって非常に重大なものになります。

そうした重大な判断は、労働者の自由な意思決定のもとでなされるべきであり、使用者がこれを妨げることが許されないのは、当然のことです。

退職勧奨と解雇の違い

退職勧奨は労働者に自主退職や合意退職の申込や承諾を促すものです。
解雇とは、使用者が一方的に雇用契約を解約することで(労働契約法第16条、労働基準法第20条)、退職勧奨とは異なります。
使用者が労働者を解雇するには、客観的に合理的理由があり、社会通念上相当(労働者が雇用契約の解消という不利益を受けてもやむを得ない事情があること)といえる必要があります。
そうでなければ、解雇権を濫用するものとして無効とされます(解雇権濫用の法理、労働契約法第16条)。
退職勧奨は、解雇とは異なるため、この解雇権濫用の法理が適用されません。

しかし、労働者の自由な意思形成を妨げるものであれば、それは違法と評価され、労働者は使用者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求(民法第709条)が可能となります。
この退職勧奨の違法性については、労働者が退職について自由な意思形成をするために社会通念上相当と認められる程度を超えて、その人格的利益を害する態様にて退職勧奨がなされたか否かにより判断されます。

違法な退職勧奨

上記では、退職勧奨と解雇の違いや、退職勧奨が違法とされる基準について簡単に説明しました。
しかし、退職勧奨が違法とされる基準自体は抽象的であるため、なかなか理解しづらいと思います。

以下では、具体的にいかなる退職勧奨が違法とされるのか、実際に裁判で争われた事案を紹介しながら説明します。

長時間・長期間にわたる執拗な退職勧奨

労働者が使用者からの退職勧奨に対して、退職の意思がないことを明確に表明しているにもかかわらず、長時間・長期間にわたってしつこく退職勧奨を続けることは違法とされます。

このような退職勧奨は、不当な心理的圧迫を加えるものであり、労働者が退職について自由な意思形成をするために社会通念上相当とされる限度を超え、人格的利益を害するためです。

最高裁判所の判例(下関商業高校事件・最小判昭和55年7月10日)を紹介します。
この事案は、労働者らが明確に退職する意思のないことを表明したあとに続けられた勧奨行為を違法とした第一審(山口地裁下関支判昭和49年9月28日)の判断が維持されたものです。

第一審では、勧奨者の人数(1人ないし4人)、勧奨行為の回数(ある労働者には約2ヵ月半の間に10回、ある労働者には約4ヵ月間に12回)および1回の勧奨行為の長さ(短くても20分、長いときには1時間半以上)からして、明らかに退職勧奨として許容される限界を超えるとしました。

そして、使用者側は、労働者らのみならず、組合役員に対しても、使用者が退職するまでは勧奨を続ける旨の発言を繰り返し行っていました。このことによって、労働者らに際限なく勧奨か続くのではないかとの不安感を与え、心理的圧迫を加えたものであり、許されないものとしました。

しかも、使用者側は、労働者らの要求する法定代理人の立会いも認めず、長期間に渡る勧奨を続け、終始高圧的な態度を取り続けていたともして、違法であるとしました。

このように、長時間・長期間にわたってしつこく退職勧奨を続けることは違法とされます。

嫌がらせによる退職勧奨

無意味な仕事を割り当てる、孤立させるなどの嫌がらせによって、退職勧奨に応じさせようとすることも、不当な心理的圧迫を加えるものであり違法とされます。

このような退職勧奨も、労働者が退職について自由な意思形成をするために社会通念上相当とされる程度を超え、人格的利益を害するものとされるためです。

これまでにあった裁判例を2つ紹介します。

1つ目は、エールフランス事件(東京高判平成8年3月27日)です。

任意の退職を期待し、労働者に対してまったく無意味・無価値であるとまではいえないにしても、実質上の有用性はかなり低いものであった統計作業のみを行うよう命じ、これに従事させ続けました。そうした退職勧奨行為は違法と判断されました。またこの事件では、暴力を伴ういじめもあったと認定されています。

2つ目は、国際信販事件(東京地判平成14年7月9日)です。

労働者に対し、ある特定の業務を単独で担当させ、その業務が忙しくても手伝わない、その業務がなくなったあとには、資料置き場になっていた机に席替えさせる、ほかの従業員に背を向ける格好をさせ、仕事を与えなかったなどの嫌がらせを行っていました。裁判ではそのように従業員を孤立させる退職勧奨は違法と判断されました。

このように、無意味な仕事を割り当てる、従業員を孤立させるなどの嫌がらせによって退職勧奨に応じさせようとする行為は違法とされます。

侮辱的・屈辱的な言葉を伴う退職勧奨

侮辱的・屈辱的な言葉を用いた退職勧奨も違法とされます。
それらの言葉は、その労働者の名誉感情を不当に害するものであり、労働者が退職について自由な意思形成をするために社会通念上相当とされる程度を超え、人格的利益を害するためです。

これまでにあった裁判例として、兵庫県商工会連合会事件(神戸地裁姫路支判平成24年10月29日)を紹介します。

平成19年になされた退職勧奨について、「自分で行き先を探してこい」「管理職の構想から外れている」「ラーメン屋でもしたらどうや」など、名誉感情を不当に害するような言葉が用いられました。
さらに平成22年から平成23年にかけて行われた退職勧奨では、「管理者としても不適格」「商工会の権威を失墜させている」「君は人事一元化の対象に入っていない」など労働者の名誉感情を不当に害する侮辱的な言葉が用いられました。

裁判では、このような侮辱的・屈辱的な言葉を伴う退職勧奨は違法と判断されました。

退職勧奨されたら

退職勧奨がされたとして、退職の意思がないのであれば、その旨を明確に伝えるべきです。それでも退職勧奨が続くのであれば、その勧奨行為は、上記のとおり、違法となる可能性があります。

また、退職勧奨を受け入れ、退職するとしても、その条件など確認するべき点があります。
以下では、退職する意思がない場合、退職勧奨を受け入れる場合における適切な行動についてそれぞれ解説していきます。

退職する意思がない場合

退職する意思がないのであれば、上司にその旨をハッキリと伝えましょう。雰囲気に押されて、その場しのぎで「わかりました」など退職勧奨を受け入れると捉えることのできる発言をすると、退職を前提とした手続がとられてしまう可能性があるので気をつけてください。退職する意思がないと明確に伝えたにもかかわらず、上司が退職勧奨を続け、用いられる言葉も穏当なものとは必ずしも言えなくなってきている場合もあるでしょう。

そうした勧奨行為は、上記の裁判例のように、長時間・長期間にわたる執拗なもの、名誉感情を不当に害するものとして、違法と判断される可能性があります。
違法と判断される可能性があるような勧奨行為を受けている場合には、受け取った書類を保管したり、上司など退職勧奨をしてくる者との会話を録音したりして、退職勧奨の記録を取っておきましょう。

そうすることで、のちに紛争になった際、自分にされた退職勧奨行為がいかなるものであったのか証明できるようになります。労働者が一度明確に退職しない意思を表明したからといって、使用者が以後退職勧奨をなすことができなくなるわけではありません。
労働者が退職について自由な意思形成をするために社会通念上相当とされる程度を超えなければ、引き続きなされた退職勧奨行為は適法とされます。

もっとも、退職するのか否かを決めるにあたり、労働者の自由な意思形成が前提とされます。
少しでも退職したくないと思っていたり、退職しないほうがよいと考えたりするなら、その場で即答することなく、冷静に検討されたうえで回答しましょう。なんとなく断りきれないかなと軽く考え、退職勧奨を受け入れると捉えられる発言をすると、退職を前提とした手続がとられてしまう可能性があります。

なお、退職勧奨行為自体は違法でないとしても、退職を拒否した労働者を配転、出向、降格させるなどの事態が起こる可能性もあります。
そうした場合には、それらが報復的・退職誘導的措置という不法な動機や目的によるものであり、権利濫用として無効であると主張して争うことが可能です(リコー事件・東京地判平成25年11月12日参照)。

退職勧奨を受け入れる場合

退職勧奨を受け入れて、辞めるときには退職の条件と、自己都合の退職か会社都合の退職なのかという2点を確認しましょう。

退職条件の確認

退職の条件には具体的に次のようなものがあります。

  • いつまで出勤する必要があるのか
  • いつから有給休暇を消化するのか
  • 退職金はいくらなのか

退職勧奨のなかで、退職の条件として増額した退職金の支払いが提示されることもあります。また交渉することで増額できる可能性もあるため、金額の確認を行いましょう。

退職勧奨を受け入れる場合に、注意してほしいこととして、退職の条件に納得するまでは働き続ける意思を示しておくこと、書類で通知してもらうことがあげられます。
条件に納得していない状態で、退職する意思を見せると、会社側の都合のいいように解釈されてしまうおそれがあるからです。
書面で通知してもらうことで、言った、言わないでのちのち争うなどのトラブルを防げます。

自己都合の退職か会社都合の退職かの確認

退職勧奨を受け入れて、退職する際には自己都合の退職なのか、会社都合の退職なのか確認しましょう。
なぜなら失業手当の給付時期やトータルの給付額が異なったり退職の手続が異なったりするためです。

会社都合の退職の場合、退職してすぐに失業手当を受け取ることができ、トータルでもらえる金額も自己都合の退職に比べて多くなります。
そして退職勧奨で辞める場合は、基本的に会社都合の退職になり、退職届を出す必要はありません。

しかし悪質な会社は、退職届を書かせたり、口頭で会社都合の退職と言っているにもかかわらず自己都合の退職として処理したりすることがあります。そうなると、失業手当をもらえるのが遅くなったり、もらえる額が少なくなったりと労働者が損をしてしまいます。

そのような事態を避けるためにも、退職が自己都合なのか会社都合なのかを確認し、会社都合の退職であれば、退職届を出さないようにしましょう。会社から会社都合による退職であることを確認する書面を出してもらうのが安全です。

退職勧奨されたら弁護士に相談するべき?

退職勧奨されてハッキリと断ったあとも退職勧奨が続いたり、あなたにとって不利益になるようなことをされたりした場合には、弁護士に相談することをおすすめします。

正直なところ、一般の方にとって、自身に対して行われた退職勧奨が違法なものであるのかを判断することは難しいといえます。

弁護士に相談することで、しつこい退職勧奨や嫌がらせに対する対処法や不法行為に基づく賠償金請求などをアドバイスしてもらえます。
退職勧奨されて悩んでいるのなら、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

まとめ

いかがだったでしょうか?
退職勧奨が違法とされる場合、違法な退職勧奨に対する対処法や、退職勧奨と解雇の違いについて解説してきました。

退職勧奨に労働者が応じる義務がなく、退職するのか否かは労働者が自由に決められます。
そのため退職しない場合は、曖昧な態度を取らず、はっきり退職しないという意思を見せましょう。

もし退職の自由な意思形成のために社会通念上相当とされる程度を超え、人格的利益を侵害する態様にてなされたのであれば、退職勧奨は違法とされます。

しかし、退職勧奨がなされ、その退職勧奨が適法なのか、それとも違法なのかを適宜判断することは、法律知識がないと困難であるといえます。
もしあなたに対してされた退職勧奨が適法か違法か少しでも悩んだ場合は、弁護士へ相談し、適切な対処法のアドバイスをもらうことをおすすめします。

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監修者情報

髙野 文幸
弁護士

髙野 文幸

たかの ふみゆき
資格
弁護士
所属
東京弁護士会
出身大学
中央大学法学部

弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。

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