固定残業代(みなし残業代)とは?メリット・デメリットとブラックな会社の見分け方
公開日:
更新日:
固定残業代(みなし残業代)とは、実際の残業時間にかかわらず、あらかじめ決めた一定時間分の残業代を、毎月定額で支払う制度です。
「固定残業手当」や「固定時間外手当」などの名称で固定残業代が支払われているケースもあります。
固定残業代が支払われていると、「通常の残業代が出ないのでは?」、「ブラック企業だ!」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、固定残業代を導入しているというだけで、ブラック企業かどうかは判断できません。固定残業代のなかには適法なものもあれば違法なものもあります。
そこで本コラムでは、固定残業代の仕組みやメリット・デメリットとあわせて、法的な観点からホワイト(適法・有効)な固定残業代と、ブラック(違法・無効)な固定残業代について、弁護士がわかりやすく解説します。
あなたの会社の固定残業代はホワイトかブラックか、ぜひ、セルフチェックをしてみてください。
- この記事のポイント
-
-
固定残業代とは、一定時間分の残業代をあらかじめ定額で支払う制度
-
固定残業代制というだけでホワイト・ブラックは判断できない
-
固定残業時間が80時間以上の場合、固定残業代制は無効となる可能性が高まる
-
固定残業時間を超えて残業していた場合は、追加で残業代を請求できる
- 目次
-
-
「固定残業代」とは?
-
固定残業代の仕組み
-
固定残業代と「みなし残業代」「みなし労働時間制」との違い
-
固定残業代のメリットとデメリット
-
固定残業代のメリット
-
固定残業代のデメリット
-
【ブラック固定残業代診断】1つでも当てはまる場合は違法の可能性があります!
-
労働(雇用)契約書や就業規則で固定残業代が明確に定められていない
-
定められた残業時間が長すぎる
-
残業代と普通の給料(基本給など)がはっきりと区別できない
-
残業時間以外の要素が考慮されている
-
固定残業代を適法・有効なものと仮定すると最低賃金を下回る
-
固定残業代が不足する場合、追加で残業代を請求できる
-
違法な固定残業代への対応策は?
-
労働基準監督署に相談する
-
残業代請求に詳しい弁護士に相談する
-
解決金約200万円を獲得できた事例
-
残業代に関するよくある質問
-
残業代は、いつまで遡って請求することができますか?
-
残業代の計算は、自分でできますか?
-
まとめ
「固定残業代」とは?
固定残業代とは、あらかじめ決められた時間分の残業をしたかどうかにかかわらず、決められた金額が残業代として支払われる給与制度のことです。
固定残業代の仕組み
たとえば、あらかじめ「月30時間分の残業代を『残業手当』として月5万円支給する」や、「基本給30万円(月30時間分の残業代5万円を含む)」と決められているとします。そして、実際には18時間の残業をしたと仮定して考えてみましょう。ここでは、月5万円が固定残業代にあたり、実際の残業時間は30時間未満です。
このとき、「月30時間分の残業代を『残業手当』として月5万円支給する」のであれば、残業手当として月5万円が支給されます。また、「基本給30万円(月30時間分の残業代5万円を含む)」であれば基本給30万円が支給されます。
このように、決められた時間分の残業をしたかどうかにかかわらず支払われるのが、固定残業代です。
固定残業代の仕組みについては、下記の記事も合わせてご覧ください。
固定残業代と「みなし残業代」「みなし労働時間制」との違い
「みなし残業代」は、固定残業代の別の呼び方で、同じ制度を指すことが多いといえます。
一方で、「みなし労働時間制」(事業場外みなし労働時間制、裁量労働制など)は、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ決められた時間を働いたものとみなす制度です。
つまり、みなし残業代(固定残業代)は「残業代の支払方法」の決まりで、「みなし労働時間制」は「労働時間の計算方法」の決まりを指します。名前は似ていますが、別の制度です。
固定残業代のメリットとデメリット
固定残業代には、たとえば以下のようなメリットとデメリットがあります。なお、メリット・デメリットは、立場(労働者か会社か)によっても異なります。
| 立場 |
メリット |
デメリット |
| 労働者 |
・給料の総額が安定する ・効率よく働けば、実質的に時給が増える |
・追加の残業代が支払われないトラブルが起きやすい ・設定時間分の残業をすることが前提になりやすい |
| 会社 |
・毎月の給与計算の手間が減る ・人件費の見通しを立てやすい |
・残業をしていなくても一定額を支払う必要がある ・設定時間を超えた分は追加で支払う必要がある |
以下では、労働者にとってのメリット・デメリットを詳しく解説します。
固定残業代のメリット
固定残業代には、給料の総額が安定するというメリットがあります。
たとえば月5万円(残業30時間分)の固定残業代がある場合、実際に30時間分の残業をしていなくても、毎月5万円の給料がもらえるためです。
また、業務を効率よくこなせば、労働1時間あたりでもらえる給料(時給)が増えるのもメリットといえるでしょう。
このように、内容次第で労働者にとってお得な側面もあります。
固定残業代のデメリット
固定残業代の制度を導入すると、会社が「固定残業代を支払っているから、それ以上は残業代を支払わない」という対応をとるケースがあります。そのようなケースでは、残業代の未払いトラブルが生じやすくなります。
また、固定残業代の制度を導入しているということは、設定された時間数の残業が発生することが前提となっている可能性もあります。実際の労働時間が長くなるおそれもあるため、注意が必要です。
【ブラック固定残業代診断】1つでも当てはまる場合は違法の可能性があります!
固定残業代が有効と認められるには、たとえば「通常の賃金と残業代の部分が明確に区別されていること」や「残業の対価として支払われていること」などが必要です。
以下のうち1つでも当てはまれば、ブラック(違法・無効)な固定残業代である可能性があります。
- 契約書などに固定残業代に関する記載がない
- 定められた残業時間が長すぎる
- 残業代と基本給の区別ができていない
- 業務内容や資格の有無など、残業時間以外の要素が考慮されている
- 固定残業代を適法・有効なものにすると、最低賃金を下回っている
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
労働(雇用)契約書や就業規則で固定残業代が明確に定められていない
企業が給料や手当を「残業代」として支払う場合、企業と労働者との間で、「手当を残業代として支払う」という合意がなされている必要があります。合意は口頭でも成立しますが、通常、重要な労働条件は、労働契約書や就業規則などの書類で残されます。したがって、以下のような場合は、注意が必要です。
- 労働契約書や就業規則に固定残業代に関する記載が一切ない場合
- 労働契約書や就業規則に金額などの具体的な記載がない場合
- 具体的な記載があるものの、契約書が交付されていない場合や、就業規則がいつでも見られる状態にない場合
これらに当てはまる固定残業代は、違法・無効となる可能性があります。
定められた残業時間が長すぎる
固定残業代の多くは、たとえば「30時間分の残業に対して5万円を支払う」というように、時間と金額が決められています。この残業時間数の設定が長すぎる場合は、違法となる可能性があります。
36協定で定める残業時間の上限は、原則として月45時間です(※)
残業時間が45時間超に設定された固定残業代の場合、ただちに違法となるわけではありませんが、長時間に設定されているほど違法・無効と判断される可能性は高くなります。
特に、労災認定の目安(いわゆる「過労死ライン」)である月80時間を超える時間数を設定した固定残業代は、違法・無効となる可能性が高くなるといえます。
残業代と普通の給料(基本給など)がはっきりと区別できない
固定残業代は、「固定残業手当」というように基本給とは別に手当として支払われるケースが多いですが、基本給の中に残業代を含めて支払うケースもあります。例えば、「基本給20万円のなかに残業代を含む」といった場合です。しかし、「基本給に残業代を含む」としか記載されず、残業代と基本給の内訳がわからないような場合は、違法・無効となる可能性があります。判例上、このようなケースは「残業代と残業代以外の給料(基本給)が明確に区別できないため、無効である」と判断されています。
残業時間以外の要素が考慮されている
残業代は、雇用契約書などの記載内容や支給方法・計算方法などを参照して、実質的にも残業代として支払われなければなりません。つまり、特定の役職や資格、業務に対して支払われている手当であると判断された場合、固定残業代としては違法・無効となることがあります。
たとえば、「営業手当」や「職務手当」などを固定残業代として支給しているものの、設定された残業時間数を超える部分の残業代が支払われていない場合や、職務や資格それ自体の対価として支払われている場合には、残業代として違法・無効といえるでしょう。
固定残業代を適法・有効なものと仮定すると最低賃金を下回る
日本では、最低賃金法という法律で、「時給換算した場合の賃金が一定の額を下回る場合は違法」であることが定められています。
つまり、固定残業代を有効だと仮定したとき、時給換算した賃金が最低賃金額を下回る場合は、違法・無効な設定金額といえます。
以下のケースを例に、固定残業代の設定金額が適法か違法かをチェックしてみましょう。
- 【Aさん】
- 1ヵ月の給料:基本給24万円 固定残業代4万円(月給) 通勤手当1万円
- 1ヵ月の平均所定労働時間:173時間(契約で決められた、労働者が1ヵ月に働くべき時間数)
- 【Bさん】
- 1ヵ月の給料:基本給14万円 固定残業代10万円(月給) 通勤手当1万円
- 1ヵ月の平均所定労働時間:173時間(契約で決められた、労働者が1ヵ月に働くべき時間数)
-
※2026年10月現在の東京都の最低賃金は1,280円
-
※Aさん、Bさんともに東京の会社に勤めている
まず、「最低賃金の対象となる賃金」を求めます。
最低賃金の対象となる賃金=月給-残業代や通勤手当など特定の手当
次に、「時給換算した場合の賃金」を求めます。
時給換算した場合の賃金=最低賃金の対象となる賃金÷1ヵ月の平均所定労働時間
そして、「時給換算した場合の賃金」が最低賃金を下回っていないかを確認することで、固定残業代の設定金額が適法か違法か判断できます。
時給換算した場合の賃金>最低賃金=ホワイト(適法・有効)
時給換算した場合の賃金<最低賃金=ブラック(違法・無効)
これらを踏まえて、AさんとBさんの給料が、最低賃金法に違反していないかどうかをチェックしてみましょう。
- 【Aさん】
- 24万円(基本給のみ)÷173時間≒1,387円>最低賃金1,280円
- 【Bさん】
- 14万円(基本給のみ)÷173時間≒809円<最低賃金1,280円
以上のとおり、Aさんは最低賃金を下回っていませんが、Bさんは、固定残業代を認めてしまうと、最低賃金を大きく下回っています。したがって、Bさんの会社の固定残業代の設定金額は、違法・無効の可能性があります。
なお、支払われるべき適切な残業代は、月給制の場合、以下の計算式で求められます。
残業代の計算の基礎となる賃金(基本給など)÷1ヵ月の平均所定労働時間×割増率×残業時間
こちらも、ぜひ参考にしてみてください。
固定残業代が不足する場合、追加で残業代を請求できる
固定残業代が有効な場合でも、実際に支払うべき金額より固定残業代の金額が少ない場合は、満たない部分を追加で支払われなければなりません。
たとえば、75,000円の固定残業代が支払われている場合に、ある月の残業代が100,000円だったケースでは、不足する25,000円を請求できます。
- 【例】
- 1時間あたりの賃金:2,000円
- 固定残業代:30時間で75,000円
- その月の残業時間:40時間
-
※法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える法定外残業の場合
残業代は「1時間あたりの賃金×1.25(割増率)×残業時間」で計算します。
上記の例の固定残業代の75,000円は、2,000円×1.25×30時間にあたります。
固定残業代でまかなわれていない残業は、10時間(40時間-30時間)であり、不足分は25,000円(2,000円×1.25×10時間)となるため、これを追加で請求できます。
つまり、固定残業代は定額でいくらでも働かせられるという制度ではありません。
なお、深夜や休日に働いた場合などには、割増率が変わります。
違法な固定残業代への対応策は?
いかがでしたか?1つでも当てはまっていた方は、一生懸命働いたのに、十分な残業代を受け取れていないかもしれません。そこで、ブラックな固定残業代には、どのように対応すればよいのかを解説します。なお、残業代には時効があり、給料日から3年を経過してしまうと、法的に請求できなくなるおそれがあります。したがって、お早めにご対応いただくのがよいでしょう。
労働基準監督署に相談する
有効な手段の一つとして、労働基準監督署への相談が挙げられます。労働基準監督署は、労働基準法などで定められたルールを会社が守っているかを監督し、守られていない場合には行政指導や調査などを行う行政機関です。労働基準監督署に相談することで、残業代請求についての助言をもらえるでしょう。また、ブラックな固定残業代にもかかわらず、会社が未払い残業代の支払いを拒否している場合には、残業代を支払うよう会社へ指導してくれる可能性があります。
ただし、労働基準監督署への相談は、以下のような難しい側面もあります。
- 労働基準監督署に通報するための証拠が集められない
- 労働基準監督署が指導しても会社が支払いを拒否する
このように、労働基準監督署に相談するだけでは、残業代が思うように支払われないこともあります。
残業代請求に詳しい弁護士に相談する
適切な残業代をスムーズに受け取るためには、残業代請求や労働問題に詳しい弁護士へ相談するのがおすすめです。弁護士に相談することで、以下のようなメリットがあります。
- 自分の力だけでは集められない就業規則やタイムカード、賃金台帳などの証拠が収集できる
- 資料をもとに具体的な金額を算定して残業代を請求できる
- 会社から「残業代は固定残業代で支払い済である」と言われても、法律や判例を踏まえて適切に反論できる
このように、スムーズに残業代請求をするためにも、弁護士へ相談するのがよいでしょう。
解決金約200万円を獲得できた事例
機械の販売・修繕を担当していたEさん。毎月の残業は50時間に及んでいましたが、支払われる手当はそれに見合わない金額でした。
ご依頼を受けた当事務所の弁護士がタイムカードを精査したところ、実際の労働時間を前提にすると、固定残業代として支払われていた手当だけでは到底足りないことが判明しました。弁護士は、多額の未払い残業代が発生しているとして会社と粘り強く交渉。その結果、解決金約200万円を獲得することができました。
-
※事例の内容はご相談当時の状況や条件等によります。
残業代に関するよくある質問
- 残業代は、いつまで遡って請求することができますか?
-
現在の労働基準法において、未払い残業代を請求できる権利の時効(残業代請求の消滅時効)は原則3年と定められています。
そのため、未払い残業代がある場合には、3年前までさかのぼって請求できる可能性があります。
なお、未払い残業代請求の時効の進行を止める(完成の猶予・更新)方法があります。
- 残業代の計算は、自分でできますか?
-
残業代の計算は、ご自身でもできます。
ただし、計算に必要な資料がすべてそろっていることは滅多になく、資料が不足していると正確な残業代の計算は難しくなります。
また、正確な残業代の計算は複雑で、非常に手間がかかることですので、弁護士に依頼して残業代を正しく計算してもらうことをおすすめします。
まとめ
これまでご説明してきたとおり、「固定残業代」といっても、ホワイト(適法・有効)かブラック(違法・無効)かを判断するにはさまざまなポイントがあります。【ブラック固定残業代診断】に1つでも当てはまる場合、残業代が未払いになっているかもしれません。ぜひ、セルフチェックしてみてください。
ブラックな固定残業代のポイントに当てはまった方でも、「うちの会社では固定残業代が支払われているからそれ以上残業代は出ないんだ」と諦める必要はありません。アディーレでは、労働問題や残業代請求を担当する弁護士が多数在籍しておりますので、知識がないと難しい計算もお任せいただけます。また、アディーレでは残業代に関する無料相談も実施しております。「自分の固定残業代がブラックかどうか気になる!」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。
監修者情報
-
資格
-
弁護士、行政書士、ファイナンシャルプランナー検定2級、E資格
-
所属
-
東京弁護士会
-
出身大学
-
東京大学法学部
私は、困っている人に対して、法律という武器を駆使して手を差しのべたいと思い、弁護士になりました。しかし、いまだ弁護士へ相談する心理的・経済的なハードルは存在し、結果として泣き寝入りしているケースもまだまだ多いのではないかと思います。そのような状況を変えるべく、事務所として施策を進めることはもちろん、私個人としても「この人に頼めば安心だ」と思っていただけるよう質の高い仕事をし、安心してご依頼いただける弁護士になりたいです。これから、日々邁進していく所存です。