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ガソリンスタンドの従業員は、残業代請求に不利?獲得できたケースを解説!

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レストランから運送会社、病院にいたるまで、「未払い残業代を請求したい!」と当事務所にご相談いただく方のお勤め先はさまざま。全国に約3万店(※)あるガソリンスタンドも、その一つです。本コラムでは、ガソリンスタンドで働かれている方が残業代を請求する場合に、問題となりうるポイントなどについて、実際の裁判例を交えながら解説します。

  • 令和2年3月末時点の資源エネルギー庁統計より
今回の記事でわかること
  • ガソリンスタンドによくある働き方
  • 給与体系の落とし穴
  • 裁判例からひも解く、残業代獲得のポイント
目次
  1. 未払い残業代発生の可能性も!?ガソリンスタンドによくある働き方や給与体系
  2. ガソリンスタンドの従業員が残業代を獲得できた事例
    1. 【ケース①】利用客がいない時間は、休憩時間?
    2. 【ケース②】この手当は、固定残業代(みなし残業代)?
  3. まとめ

未払い残業代発生の可能性も!?ガソリンスタンドによくある働き方や給与体系

1998年の消防法改正により登場したセルフ式のガソリンスタンドは、フルサービス式に比べて人件費を削減できるメリットなどもあって、急速に拡大しました。もっとも、セルフ式であっても無人営業は認められておらず、有資格者が常駐し、カメラなどを通して利用客に対応することとされています。

このような業務の事情から、ガソリンスタンドでは、自分が休憩を取っていたとしても、人手が足りていない時間帯に来客や機材トラブルがあれば対応を余儀なくされる、という場面がありえるのです。
また、ガソリンスタンドを営む会社では、「危険物取扱者(いわゆる“乙4”など)」や「自動車整備士」といった資格の取得をすすめるところも多く、これらの資格を持つ従業員に「資格手当」を支給するなど、基本給以外にさまざまな名目の手当が設定されているケースも見られます。

ガソリンスタンドの従業員が残業代を獲得できた事例

では、ガソリンスタンドで働かれている方が残業代を請求した場合、会社からはどのような反論が予想され、その見通しはどのようなものになるのでしょうか。ここからは、ガソリンスタンドの従業員が残業代を請求した裁判例2件を参考に、会社からの反論に対して、裁判所からどのような判断がなされたのか、一緒に見ていきましょう。

【ケース①】利用客がいない時間は、休憩時間?

「クアトロ事件(東京地裁平成17年11月11日判決)」では、ガソリンスタンドの従業員が、“シフト上は休憩時間とされていた時間にも、実際は業務にあたらなければならなかった”などと主張して、その時間分の残業代などを支払うよう会社に請求しました。

労働基準法上の「休憩」とは、“労働者が労働から完全に解放されることが保障されている時間”をいうとされています。簡単にいえば、来客やトラブル発生次第ですぐに業務に戻らなければならない状態は、休憩時間とはいえないのです。

この事件で裁判所は、従業員が働いていたガソリンスタンドの実態について、

  • 3交代のシフト制が採用されており、前後のシフトと重なる各1時間を除いては、1人で勤務していたこと
  • 休憩の取り方について、“営業に支障をきたさないように業務を優先すること”、“休憩中も敷地内からは出ず、食事などは持参しておくこと”などが指示されていたこと
  • 従業員は、利用客が料金を支払ったか、ノズルを給油口に差し込んだかなど、利用客の様子をチェックして、個別に対応する必要があったこと
  • 利用客がいないときも、消防法などの規制により、営業時間中は常に従業員が監督業務にあたらなければならなかったこと
  • これらの状況から、従業員は、利用客が来れば食事を中断せざるを得ず、休憩を取ろうとしても敷地内からは出られなかったこと

などを挙げ、利用客がいない時間も、従業員は、労働からの完全な解放が保障されていない状態だったとして、このような時間は休憩時間にあたらないと判断しました。

また、会社からは、“このような勤務形態で働くことに従業員も合意していた”という反論もありました。これに対し、裁判所は、“使用者が労働者に対して一定の労働時間ごとに休憩を与えなければならないのは法律上の義務であって、労働者が合意したとしてもこの義務が無くなるものではない”と判断して、会社の反論を一蹴しています。

このように、シフト上は休憩時間とされていた時間でも、勤務人数や業務内容などの事情によっては、法律上は労働時間として認められる場合があるのです。また、会社から「うちの会社では、休憩時間中も持ち場を離れないことがルールだから」などと伝えられていたとしても、それは違法な社内ルールにすぎませんから、騙されないようにしてください。

【ケース②】この手当は、固定残業代(みなし残業代)?

「マーケティングインフォメーションコミュニティ事件(東京高裁平成26年11月26日判決)」では、基本給約25万円、営業手当約18万円を支給されてきた従業員が、未払いの残業代を支払うよう会社に請求しました。これに対し、会社は、営業手当は固定残業代(みなし残業代)として支払ってきたものだから、残業代はすべて支払われている、と反論しました。

別のコラムにて詳しく説明しているように、給料の一部が固定残業代として法律上有効となるためには、いくつかの条件があります。その一つとして、会社は、給料のうちどこまでが固定残業代として支払われるものなのかを、明確にしておかなければなりません

この事件で、裁判所は、以下のような論理を展開し、“営業手当は固定残業代として法律上有効なものとは認められない”と判断しました。

  1. 仮に営業手当の全額が固定残業代だったとすると、会社は毎月約100時間分の残業代を支払っている計算になる。
  2. しかし、労働基準法や厚生労働省の告示(告示が出された平成10年当時の名称は労働省)では、残業が認められるのは基本的に“月45時間まで“とされており、会社がこれを破るような時間数を想定して固定残業代を支払っていたとは考えがたい。
  3. そうすると、営業手当は全額が固定残業代ではなく、固定残業代である部分とそうでない部分が混ざっていると考えられるが、どこまでが固定残業代なのかは明確ではない。

そして、未払い残業代は1万円余りにとどまるとした横浜地裁の第一審判決を覆し、会社に対して、未払い残業代618万2,500円の支払いを命じたのです。

このような裁判所の理屈を、やや難解に思われた方もいらっしゃるかもしれません。ひとまず、ある手当を「これは固定残業代のつもり」と会社が勝手に考えて支払っていたとしても、それだけで法律上も有効な固定残業代となるわけではない、という点を知っておいていただければと思います。

まとめ

当事務所の労働問題の解決事例集でご紹介している例をはじめ、当事務所にご依頼いただいた方のなかにも、ガソリンスタンドを営む会社に対して未払い残業代を請求した結果、会社から残業代が支払われたケースが数多くあります。

一方で、残業代請求では、固定残業代をはじめとして、会社でさえ理解しきれていないような法的な問題点が多数あり、それらの判断方法は、膨大な判例・裁判例が積み重なってきたこともあって、かなり複雑です。

ガソリンスタンドで働かれている方に限らず、「自分の場合、どこまでが労働時間として認められるの?」、「『○○手当が残業代だ』と会社に言われたけど、法律上もOKなの?」といった疑問をお持ちで、会社への残業代請求を迷われている方は、ぜひアディーレ法律事務所までご相談ください。

  • 現在アディーレでは、残業代請求を含む労働トラブルと、退職代行のみご相談・ご依頼をお引き受けしております。 残業代請求と退職代行に関するご相談は何度でも無料ですので、お気軽にお問合せください。

監修者情報

山内 涼太
弁護士

山内 涼太

やまうち りょうた
資格
弁護士
所属
東京弁護士会
出身大学
東京大学法学部、東京大学法科大学院

裁判に関するニュースに寄せられた、SNS上のコメントなどを見るにつけ、法律家が法的な思考をもとに下した判断と、多くの社会一般の方々が抱く考えとのギャップを痛感させられます。残念でならないのは、このようなギャップを「一般人の無知」と一笑に付すだけで、根本的な啓発もなく放置したり、それを利用していたずらに危機感を煽ったりするだけの法律家が未だにいることです。法の専門家として、専門知を独占するのではなく、広く一般の方々が気軽に相談し、納得して、法的解決手段を手に取ることができるよう、全力でサポートいたします。

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