裁量労働制だと残業代が出ないってホント?違法な裁量労働制を見破るポイントを徹底解説!
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デザイナーやシステムエンジニアとして働いたことがある方のなかには、このような経験をされた方もいるのではないでしょうか?
- 「うちは裁量労働だから」、「うちはみなし残業だから」と説明を受けて、残業代が支払われなかった。
- 給与明細を見ると「裁量手当」と書いてあるものの、残業代としては少ない気がする。
また、“裁量労働=残業代が支払われないもの”というイメージを持っている方もいらっしゃると思います。
しかし、裁量労働制にさえしておけば、残業代を支払わなくてもよいというのは間違いです。では、そもそも裁量労働制とは何なのでしょうか?今回は、デザイナーやシステムエンジニアといった職業の方からよくご相談を受ける、「専門業務型裁量労働制」について解説します。
- 今回の記事でわかること
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裁量労働制のルールと具体例
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専門業務型裁量労働制が有効になるための要件
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会社から裁量労働制と言われたときに確認すべきポイント
- 目次
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裁量労働制ってどんな制度?
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残業代の基本的なルール
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例外としての裁量労働制
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裁量労働制の効果
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専門業務型裁量労働制が有効となるためには
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対象業務にあたること
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事業所ごとに労使協定を締結すること
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就業規則または労働協約の定めがあること
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裁量労働制が有効かどうかを見分けるチェックポイント
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対象業務
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労使協定
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まとめ
裁量労働制ってどんな制度?
(1)残業代の基本的なルール
法律上、一日の所定労働時間は、原則として8時間までとされており、8時間を超えた部分については、残業時間として通常の25%増しの賃金(=残業代)をもらえることになっています。
通常、業務の進め方や時間配分は、ある程度会社がコントロールできるので、“所定の時間以上に働かせた場合、通常より高い賃金を支払わなければならない”というルールを定めることで、長時間労働を抑制することができます。
(2)例外としての裁量労働制
しかし、専門性が高く、仕事の進め方や時間配分を会社が決めるのが難しい業務については、上記残業代のルールになじまないため、「専門業務型裁量労働制」という制度が設けられています。実際の労働時間ではなく、あらかじめ定めた時間を労働時間とみなすことが認められているのです。
たとえば、専門性の高い業務では、はたから見ると何も進んでいないようでも、0から構想を創りあげる部分に重点が置かれていることもあると思います。こういった場合、労働者自身が仕事の進め方や時間配分に裁量を持つため、通常より高い賃金を支払わなければならないというルールを定めても、長時間労働の抑制にはなりませんよね。
また、本コラムでは詳しく解説しませんが、「専門業務型裁量労働制」のほかに、企業の中枢部門にかかわる企画・立案・調査等を行う労働者が対象となる「企画業務型裁量労働制」という制度もあります。
(3)裁量労働制の効果
裁量労働制が有効に定められると、会社は、従業員の労働時間を、あらかじめ定めた労働時間とみなすことができます。具体例を見ながら考えてみましょう。
ケース1
「うちの会社では、8時間以上働いても働かなくても、一日8時間労働したとみなします」と定めた場合、一日8時間を超えて働いた日も残業代を支払う必要はありませんが、一日6時間だけしか働いていない日にも、その差分の給料を減額することはできません。
ケース2
「うちの会社では毎日2時間ほど残業になるので、10時間以上働いても働かなくても一日10時間労働したとみなして、一日2時間分の残業代を固定で支払います」と定めた場合、一日11時間働いた日も2時間分の残業代しか支払わなくてよい一方で、まったく残業をしていない日も同様に、2時間分の残業代を支払わなければなりません。
専門業務型裁量労働制が有効となるためには
専門業務型裁量労働制は、労働基準法第38条の3に基づいて定められています。ここからは制度が有効となるための要件について、詳しくご説明します。
(1)対象業務にあたること
- 業務の性質上、その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があること
- 当該業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をすることが困難なこと
- 厚生労働省令、厚生労働大臣が定める業務であること
具体的には、下記のような職業が対象となります。
- 研究開発
- システムエンジニア
- 記者・編集者
- デザイナー
- プロデューサー・ディレクター
- コピーライター
- システムコンサルタント
- インテリアコーディネーター
- ゲーム用ソフトウェア開発
- 証券アナリスト
- 金融商品開発
- 大学の研究職員
- 公認会計士
- 弁護士
- 建築士
- 不動産鑑定士
- 弁理士
- 税理士
- 中小企業診断士
(2)事業所ごとに労使協定を締結すること
労使協定とは、労働者と使用者、つまり従業員と会社との間で労働条件等を取り決めた協定のことです。次の事項について、労使協定で定める必要があります。
- 対象業務
- みなし労働時間
- 対象業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し、当該労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと
- 健康福祉確保措置
- 苦情処理措置
- 上記のほか、厚生労働省令で定める事項
(3)就業規則などに定めがあること
専門業務型裁量労働制を採用することなどを、就業規則や労働協約、雇用契約書で定めておかなければなりません。
専門業務型裁量労働制が有効となるためには、この3つが必要となります。
裁量労働制が有効かどうかを見分けるチェックポイント
ここからは、裁量労働制が有効かどうかを確認したいときに、チェックすべきポイントについて解説します。
(1)対象業務
19業務に該当するか?
先ほどご紹介した19業務に該当しない業務については、「裁量労働制とする」と定めていたとしても、無効です。
19業務に該当する場合も、労働者に裁量がなかったり、会社からの具体的指示が可能だったりはしないか?
上記19業務に形式的に該当していればOKというわけではなく、業務の実態から、仕事の進め方や時間配分について労働者が裁量を持ち、会社が具体的指示をすることが難しいといえる必要があります。
たとえば、デザイナーであっても、その人の業務が、会社や客先からの細かな指示に基づいて作業をするだけのもの、会社側が業務のやり方や時間配分について指示できるものであれば、実質的には、対象業務にあたらない=実際の労働時間に応じて残業代を支払ってもらえるということになります。
東京地方裁判所の判決(平成30年10月16日)では、ウェブ・バナー広告のデザイナーであった労働者について、専門的な知見や職歴を有していなかったこと、営業や編集担当から作業内容について指示があったことなどから、短い納期のうちに短時間で次々と指示どおり制作をしていたものであり、裁量は限定的であるとして、専門業務型裁量労働の対象業務にあたらないと判断しました。
対象業務にあたるといえるためには、当該労働者の業務のなかに創造的な部分が含まれている必要があるといえそうです。
(2)労使協定
労使協定は存在するか?
会社側が裁量労働制を主張してきた場合に、「では、労使協定を確認したいので開示してください」と求めると、「作っていない」という回答を受けることがしばしばあります。専門業務型裁量労働制は、労使協定で定める必要があり、協定がそもそも存在しなければ無効ですので、会社に労使協定があるかを確認してみたほうがよいでしょう。
対象業務や事業所が自分に当てはまるか?
労使協定書および協定届には、対象業務や事業所が記載されます。業務内容や事業所をよく見てみると、自分の業務が書かれていなかったり、ほかの事業所について作成されたもので、自分が勤める事業所については作成されていなかったりということもあるので、まずは内容を確認しましょう。
従業員代表はきちんと選ばれているか?
労使協定書は、労働者のなかから過半数代表として選ばれた労働者と会社が作成する必要があります。
ところが、労使協定書に書かれている従業員代表が当時の役員=会社側の人だったり、従業員代表に確認すると「自分はそんな紙見たことがないし、署名や捺印もしていない」という回答で、実は勝手に作られたものだったり、そもそも過半数代表を決める手続が行われていなかったりということがあります。いずれの場合も、労使協定は無効となるので、労使協定が存在するというだけで納得するのではなく、きちんと従業員代表についても確認しましょう。
みなし労働時間は実態に即したものか?
裁量労働制は、みなし労働時間を短く定めてさえいれば、いくら残業させても残業代を支払わなくてよいという制度ではありません。そのため、みなし労働時間が実態からかけ離れたものであれば、みなし時間や裁量労働の有効性について、争う余地があると考えられます。
たとえば、従業員みんなが毎日10時間程度は働かないと到底終わらない業務量なのに、「『1日8時間労働したものとみなす」と書いているので、残業代は一切発生しない』というのはおかしいですよね。
みなし労働時間に定められたとおりの残業代は払われているか?
専門業務型裁量労働制が適用される業務は、一日あたり8時間を超える業務であることが多く、労使協定に「一日10時間労働したものとみなす」と定められていることもあります。
この場合、一日あたり2時間の残業代が固定で支払われていればもちろん問題ないのですが、給与明細を見てみると、残業代が支払われていないということもあります。「わざわざ労使協定に定めたのに、なぜ支払わないの?」と思うかもしれませんが、経営者も労使協定の内容を理解しないまま定めていたり、途中で給与体系だけ変更したりということもあるようです。
まとめ
専門業務型裁量労働制の有効性を確認するためのポイントのうち、19業務にあたるか、労使協定が存在するかという点は、自分でも判断しやすい部分だと思います。ただ、具体的な手続要件や、「実際の業務はどうなの?」といった実態要件については、なかなかご自身での判断が難しいところですので、気になったらぜひ、弁護士等の専門家にご相談ください。
また、専門家であっても、裁量労働などの細かい部分になると、詳しく理解できていないまま形式のみで判断されてしまうこともありますので、業務内容などについて丁寧にヒアリングしてくれる相談先を探してみるのがよいでしょう。
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※現在アディーレでは、残業代請求を含む労働トラブルと、退職代行のみご相談・ご依頼をお引き受けしております。 残業代請求と退職代行に関するご相談は何度でも無料ですので、お気軽にお問合せください。
監修者情報
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資格
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弁護士、2級知的財産管理技能士、2級FP技能士、宅地建物取引士(有資格)、JADP認定 夫婦カウンセラー
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所属
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東京弁護士会
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出身大学
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中央大学法学部,大阪大学大学院高等司法研究科
弁護士は敷居が高いし,なんだか怖そう。以前は私もこのようなイメージを持っており,困っている方が気軽に相談でき,寄り添える弁護士になりたいと思いました。知らない間にトラブルに巻き込まれていたり,後悔するようなことをしてしまったり,そんな人は意外にたくさんいます。勇気を持って,ぜひ1度ご相談ください。難しいことばを使う必要はありません。上手に話そうとする必要もありません。あなたの置かれた状況や胸につかえた気持ちを,あなた自身のことばで聞かせてください。未来のあなたが笑顔でいられるように,今何をすべきか,一緒に考えさせてください。