望まない人事異動は、拒否できる!?
~納得して働くために、あなたができること~
例えば、下記のケースを考えてみましょう。
あなたは、指名率上位の美容師として長年にわたり会社に貢献してきました。ある日、トータルサロン起ち上げに伴い、美容商材のプランナーとして本社に異動するよう命じられました。美容師の仕事に誇りをもっていたあなたは、到底納得できませんでした。
就業規則にはキャリアアップを図るため、異動が起こりうる旨の記載がある場合、受け入れるしかないのでしょうか?
この場合、長期にわたり活躍してきた美容師の仕事から、突然、これまでの業務とは何の関係もない美容商材のプランナーへの人事異動を命じられており、異動に納得がいかないのは十分理解できます。
会社は、労働者との間で主従の関係に立つとはいえ、無制限に労働者を異動させることが許されているわけではなく、場合によっては異動が無効となることもあります。
また、納得していないにもかかわらず漫然と異動に同意してしまうと、モヤモヤした気持ちを抱えたまま仕事をすることになり、ご自身が不幸であることはもちろん、その人の能力をフルに発揮することができない会社にとっても、同じく不幸といえます。お互いにとってWin-Winの関係にはならないのです。
意にそぐわない異動について、会社から話があった場合には、会社と相談するだけではなく、法律と交渉の専門家である弁護士に相談することも重要です。
1.人事異動とは
人事異動(異動)とは、同一の会社組織の中で、従業員の地位や配置、勤務状態を変えることをいいます。いわゆる「人事異動」と同じ種類の言葉として、「出向」や「転籍」といった言葉を聞いたことがある方も多いかもしれません。
出向とは、労働者が出向元における従業員の地位を維持したままで、相当な長期間にわたり、グループ企業などのほかの企業(出向先)の業務に従事することをいいます。異動とは、従業員の地位を維持するという点では同様ですが、自社の範囲を超えてほかの企業で働く点で性質が異なります。
また、転籍とは、労働者が、グループ企業などのほかの企業での業務に従事するために、元の会社との労働契約関係を終了させて、従業員たる地位を移すものをいいます。異動とは、ほかの企業で働くことと、元いた会社との雇用関係が終了する点で性質が異なります。
では、どのような場合に異動は無効になるのでしょうか。
異動については、労働協約や就業規則等に、根拠規定や同意規定が明記されていることが多いです。こういった規定がある場合、基本的には会社側に従業員の配転命令権が認められ、異動が認められることが多いのが現状です。
もっとも、会社側に配転命令権があるとしても、無制限に異動が認められるわけではなく、会社側の命令権の行使が濫用であると認められる場合には、異動が無効となります。
会社側に就業規則等で配点命令権が認められていることを前提に、以下の場合には、異動命令は権利の濫用にあたり無効となります。
- 異動に業務上の必要性がない場合
- 異動に業務上の必要性がある場合でも、当該異動命令が不当な動機・目的を持って行われたとき(労働者を職場から排除する目的や退職させる目的等)
- 異動に業務上の必要性がある場合でも、労働者に対し著しく職業上または生活上の不利益を与えるとき(職業上の不利益…大幅な賃金の引き下げ、権限の縮小。生活上の不利益…本人や家族の病気、介護、共働き等の家庭の事情)
2.今回のケースでは
あなたの勤務先には、就業規則に異動を許す旨の規定があるので、会社はあなたに対し配転命令権を持つことになります。そのため、会社の異動命令に前述した3つの事由がない限り、異動命令は有効となります。
今回のトータルサロンの起ち上げには、新規に顧客を呼び込むための美容商材が必要不可欠といえるので、長年指名率上位を牽引してきたあなたなら商材の知識も豊富でしょうから、業務上の必要性は認められそうです。また、今回の異動には、あなたのキャリアアップを図る措置という一面もあるため、不当な動機、目的が認められるのは難しいでしょう。さらに、異動に伴って、あなたに著しい不利益があると認められることも難しいと考えられます。このように、今回のケースを考慮すると、あなたは会社からの異動命令を受け入れる必要がありそうです。
3.望まない異動にお悩みの方は、弁護士に相談を!
もし、あなたの意に反する異動でお困りの場合は、悩んでいる間は異動については同意せず、法律と交渉の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
誰かに相談するだけでも気持ちが軽くなりますし、仮に異動の無効が認められれば、そのままご自身の力を発揮できる職場で仕事を続けることも可能です。就業規則などに異動に関する規定があるからといって、意に反する異動をそのまま受け入れる必要はありません。その異動が本当に必要かどうか、弁護士の助けを借りてもう一度確認してみましょう。